東京バレエ団<ベジャールのアジア>

THE TOKYO BALLET,The Images of Asia by Maurice Bejart

先だって上演された『ザ・カブキ』に続き、東京バレエ団の底力を感じさせる公演だった。ソリストのレベルの高さ、アンサンブルの妙。再演のたびに作品を練り上げていく舞台づくり。世辞抜きに「恐れ入りました」と平伏せずにはいられない。

舞楽』は「ジョルジュ・ドン 最後のボレロ」DVDにも入っているが、ナマのほうが百倍はいい。ベジャール作品のなかではパッションに乏しく思われるが、秘儀的世界をよく立ち上がらせている。アメフト選手姿の男性陣、巫女姿の女性陣の動きもおもしろい。踊り手のなかでは、小出領子の、指先から足先まで神経の行き届いた舞がすばらしい。メインの大嶋正樹はテクニシャンで力感溢れる踊りに定評あるものの繊細な表現こそ真骨頂だと再認識。本人は『白鳥の湖』の道化を好み、キャラクター色の強い役に興味あるというが、もっと貪欲に役柄を広げてほしい。

『バクチ?』は上野水香&後藤晴雄のペアで観ることができた。何よりも驚かされたのは上野の進境。前回シャクティを踊ったときは、残念ながら評価はやや鈍く、「ベジャールらしくない」と観客・批評家、衆目の一致するところだった。今回は、期するところがあったに違いない。ベジャールの振りをよくこなしていたのではないだろうか。プロポーションのよさ、身体能力のよさという美点がベジャールの振付のなかで見事に活きていた。ちょっと感動。小林十市が徹底指導したというけれども、その成果が如実にあらわれていた。後藤は独特の甘さと色気に加え、踊りにキレがでてきた。このところ好調のようだ。

中国の不思議な役人』は国内では3年ぶりの再演。原作の筋に沿いつつ、ベジャール一流の仕掛けが随所に施されている。なかでも娘役を男性に、若い男役を女性に踊らせるアイデアには、何度見ても脱帽させられる。暗く淀んだ暗黒街の、冷えきった雰囲気も魅力的だ。今回の上演では、主要キャストの個性が明確に打ち出されつつ、アンサンブルとしてのまとまりが絶妙のバランスで保たれていた。無頼漢の首領の平野玲は、すごみがあっていい。日本人では数少ない、芝居の出来る踊り手だ。娘役の古川和則も上り調子。軽やかな動きと妖しさが冴え渡った。中国の役人の木村和夫は端正な踊り手と評され、実際そうなのだが、この作品では怪しさをかもし出し存在感がある。柔軟なからだ使いと、音楽性の高さはさすが、というほかない。群舞もおざなりではなく作品世界にちゃんと息づいていた。

どんな舞台でも、再演、再々演を重ねれば舞台のクオリティが高まるかといえばそうは問屋がおろさない。上演の回を重ねるたびに、ダンサーたちが振付を身体に入れ、作品の輪郭をくっきりさせる――東京バレエ団の実力はたいしたもの。世代交代の難しい時期にあることを考えると驚異的ですらある(中堅層がやや弱いのは気にかかるが)。現代もの、ことにベジャール作品にかんしてはほとんどケチのつけようがないだろう。今後のラインナップを見ると、古典全幕が並ぶ。現代作品とともに古典も高水準で踊っていってほしいものだ。

(2007年1月27日 東京文化会館)