あいちダンスの饗宴「トリプル・ガラ」

愛知芸術文化センターでは、これまで地元バレエ団による合同形式による<あいちダンス・フェスティバル>、ダンスを中心にさまざまのアートを融合させた<ダンスオペラ>シリーズを行ってきた。今回は、“両者を統合し、さらに進化させた”試みとして「トリプル・ガラ」を開催した。

第一部は愛知生まれの深川秀夫振付『ガーシュイン・モナムール』が上演された。オーディションによって選ばれたバレリーナたちが出演。ロマンティック・チュチュをつけた彼女たちがモーツァルトの調べにあわせ優雅に舞う。後半は、ガーシュインピアノ曲にのせヴァリエーションやパ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワが展開される。衣装は青や緑やオレンジのクラシックチュチュ。振付はダンス・クラシックを基本に、技巧をこらし、洒落たパを織り交ぜている。息をつくまもない踊りに継ぐ踊りが魅力的だ。バレリーナたちに混じり、大寺資二、窪田弘樹の男性陣も軽やかに場をさらう踊りを披露。愛知バレエ界のレベルの高さを知らしめた。

休憩挟んで第二部は、「あいちメダリストたちの饗宴・古典バレエガラ」。『眠れる森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥには、怪我のため降板した植村麻衣子に代わり、Kバレエカンパニーの荒井祐子が芳賀望とともに出演。荒井は強靭なテクニックに加え、近年、踊りに風格が出てきた。芳賀も怪我から復帰、荒井のパートナーを手堅く務めた。『ジゼル』第一幕のヴァリエーションを踊った山下実可の清新さ、『サタネラ』よりヴァリエーションを踊った岩越梨沙の若さに似合わぬ表現力にも惹かれる。最後は『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ。イルギス・ガリムーリンと組んだ若手のホープ・米沢唯が超絶フェッテを披露(トリプル、クワドは朝飯前)。会場を沸かせた。コンクールが盛ん、若手の宝庫ともいえる愛知バレエ界。若手ダンサーの層の厚さに関しては西高東低だということを改めて認識させる。

第三部が当日のメイン、ダンスオペラ『ハムレット〜幻鏡のオフィーリア』である。これまで『UZME』や『青ひげ城の扉』など大作が続いたが本作はプロローグ、エピローグ付き6景にまとめられた中篇。膨大な原作をハムレット(西島千博)、オフィーリア(平山素子)、レアティーズ(山崎広太)三者の関係に絞ったことで凝集感が生まれた。語り・歌は毬谷友子。音楽は笠松泰洋のオリジナル。ダンスと語り、音楽が共振するシーンも魅力的だが、ここぞという場面ではじっくりとダンスのよさでみせる。ハムレットとレアティーズの決闘も下手な芝居など抜きに両者の身体と身体が対峙、息詰まる攻防が繰り広げられた。振付はダンサー3名による共作。この種のコラボレーションでは、誰かが求心力を持ってまとめあげないと微温的でつまらない内容になってしまう。その点、今回、互いに歩み寄りつつもそれぞれのよさが出ていたように思う。台本、構成が禁欲的、よく煮詰められていたことも大きいだろう。平山は抑制された動きの中にも悲しみと狂気をただよわせる。西島のハムレットは、メランコリーと独特の甘いムードの交錯に特長がある。山崎の、地に足の付いたしなやかな踊りは、理知的なレアティーズの人物像をよく体現。照明も効果的に用い、大劇場において多くの観客に伝わりやすいようにとの工夫の跡がみられた。そして、特筆しておきたいのが笠松の、台本から自由にイメージして創ったという音楽。ヴァイオリン、チェロ、フルート、ハープを織り交ぜたものだ。舞台のイメージを膨らませるとともに、音楽だけ独立しても出色のものだった。フルートの木ノ脇道元ら演奏者のパフォーマンスも鳥肌がたつくらいすばらしい。願わくは再演を重ねていってほしいものだ(なかなか難しいようだが)。

地域発の舞台芸術の可能性、ダンスを中心とした新たな舞台表現を探る試み。「ダンス王国・愛知」を標榜するに相応しい、意欲的な公演だった。プロデュースを手がけた芸術文化センター学芸員唐津絵里の仕事に心から敬意をはらいたい。

(2007年2月2日 愛知県芸術劇場大ホール)