東京バレエ団『ザ・カブキ』

THE TOKYO BALLET,THE KABUKI/Choreographed by Maurice Bajart

東京バレエ団が3年ぶりに『ザ・カブキ』を再演した。いわずと知れた、丸本歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」のバレエ化。今回、久々に観て感じ入ったのは、東京バレエ団にとってはもちろんベジャールにとっても重要な作品だということ。

亡きドルジュ・ドンに捧げた『バレエ・フォー・ライフ』以降、巨匠の作風が大きく変わったのは間違いない。常に時代と正面から対峙、エロスとタナトスをテーマに掲げた作風は影を潜め、過去への回想、死への愛惜が強く押し出されてきた。思うに、その萌芽は『ザ・カブキ』にあったのだろう。鍵となるのは、フィナーレの「討ち入り」に原作にはない、四十七士切腹の場を加えたこと。サムライたちは本懐をとげ自ら死を進んで受け入れるが、その魂は永遠に受け継がれていく。このメタモルフォーゼというテーマは、三島由紀夫という死に魅入られた作家の生と死に迫った『M』ともリンクする。死を鋭く見つめることで限りなく生のすばらしさをたたえる『バレエ・フォーライフ』は、その延長上に成り立っているのだろう。

ダブルキャストのうち由良之助:高岸直樹、顔世:齋藤友佳理の日を観た。いかに剛健な高岸といえども、つぎ3年後には体力的に踊るのは難しいだろう。その勇姿をしかと見届けるつもりで会場に出かけた。由良之助役にとって最大の難関は7分半におよぶヴァリエーション。長いうえに、後半になるにつれ動きが激しくなり、細やかなパが続くという鬼のような振付だ。想像を絶するほどハードに違いない。今回、高岸は入魂の演技で完全燃焼したのではないだろうか(今後も踊ってほしいが)。カーテンコールは拍手が鳴りやまなかった。長年コンビを組む齋藤友佳理との共演も久々に見た気がする。バレエ団内では上野水香と組むことが多く、関西の野間景と踊る機会も増えているが、齋藤とのコンビはやはり格別である。

世代交代期にあり、初役も多い。群舞も前回上演時よりも大幅に若返っている。彼らとベジャールの振付を骨の髄まで知り尽くしたベテランたちを現段階で比べるのは酷というものだろう。しかし、一昨年の『M』、昨年の『くるみ割り人形』、そして今回の『ザ・カブキ』とレパートリーの継承が着実になされているさまを見て取ることができた。群舞からソリストになるかならなかくらいの踊り手のなかに、イキのいい人材が散見される。続いて行われる<ベジャールのアジア>も楽しみだ。

(2007年1月23日 東京文化会館)