チェルフィッチュ『エンジョイ』

岡田利規(チェルフィッチュ)が新作『エンジョイ』を新国立劇場で発表した。


新宿の漫画喫茶(マンキツ)を舞台に、30歳を越えた年長フリーター達を中心に、現代日本ですでに可視化されつつある格差社会の“下流”を生きる彼らの、バイトや恋愛に対する態度が描かれます。そしてフリーターの問題を、今年フランスで起きた学生デモなどとも共通した、世界的に増加傾向にある非正規就労者の問題の一環としてとらえていきます。

コピーをみた際、いかにもの社会派的テーマに一抹の不安を覚えた。しかし、『マンション』(02)以降の作品に強いシンパシーを感じている異才・岡田のことだからありきたりな社会派作品にはなるまいと期待していた。

いわゆる若者言葉を脈絡なく垂れ流したかのような“超リアル日本語”と、それに連動する独特の身振り、手振りはいつもと同じ。テロップやビデオ撮影による映像も駆使して岡田演出は冴えている。しかし、これまでの作品とは明らかに演出家の目線が異なっているようだ。

『三月の5日間』(04)は若者の焦燥や不安を掘り起こすことで9・11やイラク戦争といった社会問題への疑念を提示していた。『寄港地』(05)では出生をめぐる“個人的な体験”を見つめることによりアクチュアルなテーマが浮き彫りになっていた。今回、ややテーマが先行している感は否めないだろう。フランスの学生たちによるデモ映像を用い日本の若者たちと対比させる演出も、計算が鼻につくかもしれない。

役者たちの身振り手振り――個人的にはチェルフィチュ振りとよんでいるが――も会場が広いこともあり計算してのことに違いないがオーバーアクト気味か。全体的にマスを意識した構成・演出なのは確かだ。疑問も感じたが刺激的な舞台なのは間違いない。新国立劇場の観客に “生産的な摩擦”を起したいという岡田の狙いは十分達成されたと思う(これはスノッブな次元での話題だが、さる高名な演劇評論家が終演後拍手もせず憤然と席を後にするのを目撃)。