ウミヒコヤマヒコマイヒコ

dance3002007-04-16

昨年秋の『透体脱落』を最後に、劇場での公演を休止、各地で「場踊り」を行っている田中泯。近年は、山田洋次監督『たそがれ清兵衛』、犬童一心監督『メゾン・ド・ヒミコ』など映画にも出演、話題を集めている。その田中の主演する映画が今年初夏、公開される。といっても、劇映画ではない。『ウミヒコヤマヒコマイヒコ―田中泯ダンスロードインドネシア』。2004年11月から12月にかけて45日間にわたり、インドネシアの農村や漁村を独舞行した記録をまとめたものだ。製作は『乱』『始皇帝暗殺』などで知られる井関惺、監督はデザインディレクターとしてパッケージや広告を手掛ける油谷勝海 。

私は踊っている気なんですが、そう見えないかもしれません”田中自身ナレーションするように、インドネシアのさまざまな島を訪ねながら、道端でごろごろ転がったり、寝そべったり、ただフラフラ立っていたりと、足の向くまま気の向くままの独舞行である。スラウェシ島、スンバ島、カンゲアン諸島、マドゥラ島、ジャワ島、バリ島――島々をめぐる6つの旅。田中は、大地や海、川を背景・借景にするのではなく、野生に溶けこみ息づくかのように“踊る”。島民たちは、それを見てわらわらと集まる。インドネシアでは、舞踊とは儀式であり芸能だ。労働や遊びも密接に関わってくる。職業は百姓と言い切る田中も、生活者として地に足の着いた踊りを追及してきた。劇場空間で踊られる舞台芸術としての舞踊よりも、おのれの衝動をいささかも装うことのない身体こそ田中の志向するダンスなのだろう。このインドネシア独舞行は、自身の舞踊観を確認し、その後の活動を定める転換点となったという。田中のダンスの真髄が詰まった120分。

熱帯特有のからりとした気候、のどかな田園地帯、万物の生命たる水のきらめき、原始的な手作業による田植え、島民たちによる盛大な結婚式――現地の景色・風景を余さずフィルムに定着させている点も魅力的。その緩やかな時間の流れは、日々忙しく、せわしない生活を送る都会人にとってなんとも贅沢なものだ。田中の身体を通じ、観るものの心もしばし野生へと思いをめぐらせる。じわじわ身体に効いてくる、なんとも不思議な魅力をもったダンスロードムービーである。

(2007年4月9日 映画美学校第2試写室)
6月2日より、シアターN渋谷にてロードショー(配給:タラコンテンツ)

公式HP:http://www.maihiko.com/

田中泯 公式HP:http://www.min-tanaka.com/

※画像は公式HPより転載。

※当記事は桜座発行・甲府コミュニティマガジン「桜座スクエア」に転載されました。