稲本渡 アーティスティックライヴ

クラリネット奏者・稲本渡のライブ、ティアラ140+ #18 「WATARU INAMOTO Artistic Live 稲本渡 アーティスティックライヴ」を聴いた。

父の耕一はクラリネット奏者、兄・響はピアニストという音楽一家に生まれた稲本は、内外で活躍する気鋭の若手。今回、“スタイリッシュでストイックな中にある温かさ”をテーマに公演を行った。第一部は、クラシックのレパートリー中心。「無伴奏チェロ組曲第2番」(バッハ)、「3つの小品」(ストラヴィンスキー)、「ラルゴ」(ヘンデル)、「クラリネットソナタOp.120-2」(ブラームス)のほか、父・耕一の作曲した「Esperanzas」を演奏。まずは、クラリネット独特の温かみのある響きを心ゆくまで味あわせるという趣向だ。

休憩挟んで第二部では、音楽・踊り・映像の三者のコラボレーションが展開される。「無伴奏チェロ組曲第一番」「ガヴォット」(バッハ)、兄・響による「思いやり」「海の上のピアニスト」をへてピアソラの「リベルタンゴ」で締めた。トシ・オオタの撮り下ろした映像と、画家・及川キーダが描き下ろした作品を足立典生のVJワークでミックスしたものがバックのスクリーンに投影される。“温かさ”というコンセプトは映像からも感じられた。上山千奈(東京シティ・バレエ団ソリスト)による自作自演のダンスも絡む。上山は、美しい容姿の持ち主、清楚で白のよく似合うバレリーナである。その魅力を活かしたパートもあったが、ピアソラ曲に合わせた、赤の衣装・ハイヒールで踊るダンスが面白かった。奇を衒わない素直な振付。小ホールの狭い空間での踊りであったが、開放感があっていい。ピアノの横山貴子の演奏もアンサンブルとして場を心得ており好感を持った。

アンコールの二曲目では、フィギュアスケート浅田真央が今シーズン用いたことで知られるモンティ作曲「チャルダッシュ」を稲本が演奏、上山がそれにあわせ踊った。最後は、くるくる回るグラン・フェッテ。狭い舞台のためヒヤヒヤさせられはしたがきれいにきめて満場の喝采を浴びていた。アートを身近なものとして提供するティアラ140+シリーズらしい、楽しくみどころの多いステージだった。

(2007年4月20日 ティアラこうとう小ホール)