加藤みや子、BABY-Q、インバル・ピント

芸術の秋、ダンスの秋であるが今月は連日公演が目白押し。11月上旬、ことに9-11日の週末はダンスの舞台が重なり、必要あって観るもの優先したため見落としたものや遠方まで観にいったものもあった。観ることのできたもののうちからいくつの雑感を。


加藤みや子ダンススペース『笑う土』『蓮の花』
伊藤キム笠井叡を得ての『サンドトポス』や厚木三杏、ピエール・ダルトらも参加した『海に消えた花嫁』など話題作を提供している加藤みや子。若手の育成にも積極的で、ショーケース「Dance,Link/Ring」シリーズを開催、成果をあげている。今回は門下中心に東北の民話に取材した新作を披露した。自然とヒト、土の記憶をめぐる神話がイメージ豊かに描かれる。組んず解れつの動き中心だがいつもながらの丁寧なタッチに好感は持てる。ミュージックシアター『浄土』などで知られるパーカッションの加藤訓子の演奏に接することが出来たのも幸いだった。加藤のソロ『蓮の花』も併せて上演。こちらは10年前に江口隆哉賞を得た『植物の睡眠』よりの抜粋である。病の渕の岡田隆彦より筆談で渡された詩がモチーフとなっているという。無音から「亡き王女のためのパヴァーヌ」を用い、哀愁漂う雰囲気のなかに静かな焔のように生のきらめきを感じさせた。
(11月1日 青山円形劇場)

BABY-Q(東野祥子)『GEEEEEK』
昨年、東京で短縮版公開後、大阪で完全版が初演された作品の東京初演。タイトルは「異形」であり、ブキミでグロテスクなイメージがこれでもかとばかりに陳列される。作家本人は寺山修司の世界を意識しているようだが、より暴力的で野卑か。でも、単なる露悪趣味や自己表出とは違う。東野の提示する「異形」は誰の心の奥底にもあるもの。そこへ観るものを強引に引きずり込む。東野の、緩急自在にして異様なまでの強度を感じさせるダンスには、泣く子も黙らせる迫力がある。美術や音楽まで含めトータルに世界観を構築する力も突出。が、大阪での初演時ほうがインパクトはあった気はする。その時は東野に伍して、上月一臣が目も眩むようなテンションの高いダンスをみせてくれたこともあるだろう(ちなみに彼はヤン・ファーブルの新作のオーディションに受かり、現在欧州にいるようだ)。東野以外のダンサーがやや弱いとは感じた。ともあれ、「観たくないような、でも覗きたい」世界へ誘うのは間違いなくダンスのチカラであり、それを享受できるのは愉楽である。東野ワールドがますます凄みを増しているのは確かだ。
(11月2日 森下スタジオC)

インバル・ピント・カンパニー『Hydra/ヒュドラ
日本における新作世界初演として話題を集めたインバル・ピント・カンパニーの新作。彼らの作品のうち日本で紹介された『オイスター』『ブービーズ』では、サーカスのような意匠やアクロバティックな動きを駆使、ちょっぴり不気味だけども幻想的で色彩豊かな世界が繰り広げられた。今回の新作はやや趣が違う。棒や砂袋などの小道具が印象的に用いられ、衣装もやや奇抜ではあるが派手な仕掛けはなく、シンプルで無駄なものはそぎ落とされている。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」がモチーフとなっているらしいが、直截それは感じさせない。生と死が大きなテーマではあろう。全編が静謐な美に充たされていた。ダンサーたちの織りなす滑らかでしなやかな動きの連鎖が観るものの想像力を掻きたてる。とにかく「感じる」作品である。タブローのように完成された世界に違いないが余白がある。ピースを埋めるのは、観るものそれぞれである。カンパニーの踊り手たちに加え、日本から参加の森山開次、大植真太郎のデュオが特に魅力的。どちらも得体の知れない、でもなんとも魅惑溢れるダンスをみせてくれた。ことに森山の「しなやかな野獣」とでもいうべき独自の存在感には心奪われる。インバル・ピントの造り出す夢のような世界に眩惑させられ、感性をおおいに刺激される一時間だった。
(11月14日 愛知県芸術劇場大ホール)