アグン・グナワン&鈴木一琥、未國、白井剛×川口隆夫×藤本隆行、MOKK LABO

全国各地で年末の風物詩『くるみ割り人形』が上演される。これまでも多摩シティ・バレエ団、牧阿佐美バレヱ団、井上バレエ団などの舞台を観たが、それぞれ趣向を凝らした演出を見比べるのは一興、ソリストや群舞のなかに若い逸材を見つけた際の喜びは何物にも変え難い。そのほか勅使川原三郎の新作ソロや二見一幸の新作4本立てなど多くのダンス公演が目白押しだが、観ることのできたうちからいくつかの雑感を。


アグン・グナワン&鈴木一琥『Water Dimension 水の面』
日本とインドネシアの気鋭ダンサーによるコラボレーション。両国の伝統芸能のなかに沈潜する自然への畏怖をコンテンポラリーな表現のなかに定着させるという試みのようだ。ジャワ伝統舞踊を習得したグナワン、演劇活動を経て神楽に傾倒する鈴木。異なるバックグラウンドを持ちながら互いを尊重し、歩み寄るさまはなかなか興味深かった。今春、アジアダンス会議が行われたようであるし、JCDNの「踊りに行くぜ!!」でも今年はアジアツアーを観光したりアジアの踊り手を招いたりという試みが行われている。なるほど日本のみならずアジアのなかでの舞踊を考えていく必要もあるのだろう。
(2007年12月3日 門仲天井ホール)
未國〜蛇女〜「幻夜ノ戀」 
能、神楽、俗謡といった古来からの芸能に現代の感性から光をあてる芸術家集団(を標榜する)未國。所見は二度目である。前半の「卒塔婆小町」は設定、翻案が分かりにくく狙いが不明瞭だった。しかし、異才・山田茂樹のダンスは喩えようもなく甘美。三絃、謡も妖しい雰囲気を醸しだしてはいた。後半は、バンドにあわせた歌舞集だが、ボーカルが弾け過ぎの感。谷桃子バレエ団若手の気鋭・緒方麻衣はじめダンサーは逸材が揃う。振付は前田新奈。もう一息いや二息欲しかったところ。動きの作り方、音楽性とももっともっと工夫あって然るべき。前田は振付に取り組む意思は固いようであるし、H・アール・カオスに参加するなど表現の幅を広げようという意欲は感じる。来秋に行われるというクロカミ☆バレエ団公演が正念場だろう。楽しみではある。
(2007年12月7日 オリベホール)
白井剛×川口隆夫×藤本隆行『true/本当のこと』
山口、金沢公演に続いて関東上陸である。9月の山口でのワールドプレミアを観てはいるが、細部まで練り上げられより完成度が高まっていた。パフォーマーの動きに最新鋭のテクノロジーによる照明や音響が反応。音と光、そして動きが完璧にシミュレートされる。冒頭、大きな机の上におかれたモノと戯れる白井の姿に、彼の傑作ソロ『質量,slide,&.』(04年)を想起させられる。その延長線上にある作品と捉えても問題ないだろうがより手ごたえのある創作となったように思う。白井の、パーソナルな世界観を繊細に紡いでいく資質を活かしつつ、ダムタイプ藤本隆行はじめ現代日本の誇るテクニカルスタッフがあらゆる舞台意匠に密接に関わり、クールな雰囲気を帯びた独自の存在感ある川口が白井に絡む展開。舞台は、日常の空間から非日常、そして狂的な空間へと変容していく。後半、より密度が濃くなった印象。身体の虚と実の不可思議が精巧に創りこまれた世界に浮かび上がった。公的な助成も得ての、山口、金沢、横浜と各地のスペースの共同制作という試みは画期的。今後は海外公演を射程に入れているようだ。ローカルからグローバルへ――。今後のコンテンポラリー・ダンス制作のモデルとなる可能性を秘めたプロジェクトだといっても過言ではないだろう。
(2007年12月15日 横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)
MOKK LABO#2 廃墟
MOKKは、村本すみれを中心とした「劇場機構を離れた空間からの発信」を軸にしたダンス・プロジェクト。LABO公演では小スペースにこだわって活動している。今回の舞台は九段下ビル。昭和2年建立、築80年の廃墟と化した建物である。1階の入口で受付を済ませると、3階へ行くよう指示される。3つの小部屋とテラス、廊下を20分ほどで巡るツアー形式のパフォーマンスである。現在、このスペースを管理しているのは領域探査デザイン。古く制約のある期限付き物件を借り、必要とする人たちに貸すという試みを行っている。MOKKのメンバーは、小スペースを活かした親密感のあるダンスを披露し、また、廃墟ならではのレトロな趣を活かした演出、驚くような仕掛けも施して観客をユルユルと非日常の世界へと誘なっていく。ダンサー個々のキャラも立っていて面白い。1日4、5回の上演とはいえ各回10人ほどの定員のためレアなイベントとなった。MOKKは来年4月、神楽坂は赤城神社で新作を発表する。「場」にこだわるニッチな、でもワクワクする体験を味あわせてくれる遊び心溢れるプロジェクト。次の展開も楽しみにしたい。
(2007年12月16日 九段下ビル・九段下テラス)