2008年4〜6月の印象に残る振付家・ダンサー

黒田育世(ギグメンタ2008・細江英公×黒田育世の演技)
・村本すみれ(MOKK『ましろ』MOKK LABO『暗闇』の演出)
・小島章司(小島章司フラメンコ2008『越境者』の演技)
上野水香(東京バレエ団「M・ベジャール追悼特別公演」の演技)
・森優貴(『ひかり、肖像』の振付・演技)
・伊藤友季子(牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』の演技)
・法村珠里(法村友井バレエ団『眠れる森の美女』の演技)
・内田香(ダンスパフォーマンス『Maquillage』の構成・振付・演技)
・鈴木ユキオ(『沈黙とはかりあえるほどに』の振付・演技)
KATHY(シークレット・パフォーマンス『Happy Birds』の演技)

作品・公演よりも印象に残った演技や振付を記しておきたい。年度末に1年を振り返る際、秋以降の舞台の印象が強くなることもあるので備忘録の意味合いも兼ねて。
黒田育世はギグメンタ2008の企画公演で写真家・細江英公とコラボレーション。土方巽を撮った『鎌鼬』のスライドを背景にエッジーなダンスを繰り広げた。(4月6日 アートコンプレックス・センター)
村本すみれらによるMOKKは、劇場以外での空間を活動の場として刺激的な舞台を展開。『ましろ』では神社の境内を縦横無尽に使って遊び心あふれる舞台を生み出し、『暗闇』では小さなコンテナボックスのなかでのパフォーマンスをみせ観客を作品に巻き込んだ。(4月12日 赤城神社、6月20日 板橋区蓮根にあるコンテナボックス)
小島章司フラメンコ2008新作は2部構成。2部、小島とタビ・ロメーロのデュオが圧倒的だ。孤高、枯淡の境地に達しつつある小島だが若いロメーロと正面からぶつかる様は、飽くなき挑戦者としての気概を示している。名作『一瞬と永遠』(03年)におけるイズラエル・ガルバンとの火花散る競演を彷彿とさせた。(5月9日 俳優座劇場)
上野水香ベジャール振付『ギリシャの踊り』ハサピコの踊りが出色。虚飾を廃し、真摯に振付に向き合う姿勢が抜きん出ている。振付自体も造形美を際立たせるもので上野にぴったり。脚を上げすぎなどとピンボケの批判もネット上等で散見されたが、ベジャールの振りを忠実かつ魅力的に踊りこなしている。今後、型をキープしつつ表現のニュアンスが豊かになれば文句なしだと思う。(5月10、11日 東京文化会館)
森優貴貞松・浜田バレエ団出身。欧州で振付家、ダンサーとして活躍、昨年古巣に提供したコンテンポラリー・バレエ『羽の鎖』で芸術祭新人賞を受けた。今回は能楽の津村禮次郎と今をときめく酒井はなとのコラボレーション。2部構成のうち1部における酒井とのデュオが秀逸だった。熱情的演技を特徴とする酒井から抑えた演技を引き出し、また、自身のしなやかで繊細な踊りも魅力的。(5月15日 セルリアンタワー能楽堂)
伊藤友季子は今回、主役のキトリではなく街の踊り子、キトリの友人役を踊ったが、伸び伸びと元気でじつによかった(別の日には森の女王も踊った)。パとパを音楽的に、流麗に紡ぎだしていく稀有な資質の片鱗をうかがわせる。八月の『ロメオとジュリエット』、秋の『ライモンダ』主演が待ち遠しい。(6月13日 ゆうぽうとホール)
法村珠里のバレエ団公演初主役公演は、新星誕生の場に立ち会えたという幸福感で充たしてくれた。無理なく上体を用いて美しいラインを描き出せる優れたバレリーナアラベスクも高く上がるが、骨盤をずらしたり、無理に上げるのではなく、脚の付け根から丁寧にていねいにあげられ観ていて実に心地よい。(6月14日 フェスティバルホール)
内田香(Rossewaltz)は、クラブでのソロダンスパフォーマンスで新たな魅力を振りまいた。このアーティストは観るたびに鮮烈な印象を残すし、表現の質も変えて来ている。映像や衣装もセンスよく濃密な時間に惑溺させられた。(6月15日 Super Deluxe)
鈴木ユキオ(金魚)は昨年初演した『沈黙とはかりあえるほどに』を改訂しトヨタコレオグラフィーアワードに参加した。1時間ほどの作品を短縮し、メンバーの見せ場も増やしつつ無音と大音量の対比など演出面も充実。《次代を担う振付家賞》を獲得した。文学に喩えると、鈴木が純文学的、特別賞のKENTARO!!がエンタメ路線かも。結果的にバランスの取れた選考だった気もする(6月28、29日 世田谷パブリックシアター)
KATHYのシークレット・パフォーマンスは江東区・白河清澄にある倉庫ビルのスペースで行われた。ニワトリたちと戯れ、暴れる覆面の三人娘の破天荒なパフォーマンスを楽しんだ(6月29日 MAGIC ROOM)