輝く未来 試演会「0808」

伊藤キム率いる輝く未来 試演会「0808」を観る。輝く未来はコンテンポラリー・ダンス界の寵児、伊藤キムが自身で創作は手がけないものの後進を育てるという目的で結成。昨年2度の試演会のあと本公演を実施した。メンバーが各々創作を手がけつつ切磋琢磨、研鑽を重ねていくという試みが注目されている。今回は2年目初の会となった。
昨年は伊藤が踊り手としてメンバーの創作に出演したが今回それはなし。このカンパニーでは、創るということと踊るということが密接に絡みあって表現者としてのポテンシャルを高めようとしているように思える。稽古日誌を公開しているが、何を稽古したか、何を創ろうとしているのかを言語化することも自身を見つめ直す手段として有効だ。
とはいっても、創ることがすなわち踊り手にとってプラスになるとは必ずしも限らない。モダンの世界では比較的早くから自作自演でコンクールに出品したりするなど創作が奨励される。しかし、それらのコンクール等では、毎度毎度のありがちな、自身を客観視することなく既存の語彙・手法に安住しただけの虚しい生産物としてのダンスが連ねられることも少なくない。いっぽう、コンテの世界でもまだ技術的にも方法論的にもなにも確立していない未熟な身でありながら創作を手がけ、あまつさえワークショップまで開こうという厚顔無恥な輩が存在する。百害あって一利なし。その点、輝く未来は、伊藤という親方が睨みを利かしつつ、ダンサーたちが自発的に考え、自身を見つめ創作を生みつつ表現者として大きくなれるような場として期待される。
今回は5作が発表された。『○〇○  ユー』(振付:新宅一平、出演:井上大輔、森将雄、山下彩子)、『隣のむすこ』(振付:三輪亜希子、塩野入一代、出演:伊藤歌織、塩野入一代、新宅一平、三輪亜希子、山下彩子)、『FUJIYAMA』(振付:塩野入一代、出演:メンバー全員)、『コエカラス』(振付:森将雄、出演:伊藤歌織、井上大輔、新宅一平、平良麻由子、三輪亜希子)、『ジェンカジェンカ』(振付:平良麻由子、出演:メンバー全員)。いずれもまだ習作の趣はあるものもクリシェでおざなりに踊るような代物はひとつもない。踊り手の身体にフォーカスをあて、そこから何かを引き出そうとしているのに好感を持てる。『隣のむすこ』などダンサー個々の関係性や存在感をよく引き出していて惹きつけられた。今年は底力のあるメンバーが集っている。伊藤の叱咤激励のもと、11月の試演会、翌年3月の本公演が楽しみだ。伊藤の仲間からは、遠田誠、白井剛、岡本真理子、黒田育世、森下真樹ら逸材が出ている。それに続く存在の誕生を心待ちにしたい。
(2008年8月1日 桜美林大学PRUNUS HALL)