日本のバレエシーンの現在と未来

“この1冊でバレエがわかる!”が惹句である「バレエ・パーフェクト・ガイド」(ダンスマガジン編・新書館)が刊行された。同社から以前出ていた「バレエって何」のリニューアル版だろう。執筆者は海野敏、堤理華、長野由紀、桜井多佳子、新藤弘子、村山久美子、吉田裕の各氏。いまをときめく錚々たるバレエ評論家の方々である。

バレエ・パーフェクト・ガイド

バレエ・パーフェクト・ガイド

主な柱になっているのが「バレエ・ダンサー70」「バレエ・カンパニー33」「バレエ名作33」。ダンサーの項目ではギエム、アナニアシヴィリ、ザハーロワ、ルグリ、マラーホフ森下洋子熊川哲也上野水香ら人気ダンサーを中心に取り上げている。その選出と扱い(1ページ扱いと4分の1扱い)にはバレエファンの嗜好は異なるのでさまざまの意見もあるだろうが海外のブランドダンサーと日本の大手在京バレエのトップダンサーをフォローしているようだ。個人的に注目したのは「バレエ・カンパニー33」。そのうち日本のバレエ団として15の団体が挙げられ紹介記事が書かれている。以下、名前のみ列挙してみる(掲載順)。

東京バレエ団:http://www.thetokyoballet.com/
・Kバレエカンパニー:http://www.k-ballet.co.jp/
新国立劇場バレエ団:http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/
・牧阿佐美バレヱ団:http://www.ambt.jp/
松山バレエ団:http://www.matsuyama-ballet.com/
・スターダンサーズ・バレエ団:http://www.sdballet.com/
・東京シティ・バレエ団:http://www.tokyocityballet.org/
谷桃子バレエ団:http://www.tanimomoko-ballet.com/
・井上バレエ団:http://www.inoueballet.net/
小林紀子バレエ・シアター
NBAバレエ団:http://www.nbaballet.org/
・越智インターナショナルバレエ:http://www.ochiballet.com/
・法村友井バレエ団
・貞松・浜田バレエ団:http://www.sadamatsu-hamada.com/
・Noim:http://www.noism.jp/

このうち東京バレエ団、Kバレエカンパニー、新国立劇場バレエ団、牧阿佐美バレヱ団はカンパニーの規模、公演回数、レパートリーの豊富さ、優れたダンサーの多いことから現時点で日本を代表する大バレエ団といえる。それに同じく規模の大きさと伝統でいえば松山バレエ団も大バレエ団ではあろう。ここまでが1ページ使っての紹介。ほかに首都圏の中堅、新進団体が6つ。首都圏以外では名古屋から1つ、関西から2つ。注目すべきはNoismがバレエ団扱いで入っていることだろう。欧州のネザーランド・ダンス・シアターやスペイン国立ダンスカンパニーのようにコンテンポラリー専門のカンパニーとしてプロ活動を行う団体が出てきたことは喜ばしい。
総じて大体そんなものだろう、という選出だが、近年刊行された各種バレエガイド本で挙げられているものや文化庁が最高水準の舞台芸術公演に対して助成を行う「芸術創造活動重点支援事業」に採択されていることなども考慮すると、首都圏では公演数・公演回数ともに比較的多いバレエシャンブルウエスト、戦後バレエのパイオニア小牧正英の流れを汲み近代バレエのレパートリーに特長ある東京小牧バレエ団、北海道では東京公演も行ない芸術祭大賞を得たこともある札幌舞踊会、中部地区では最大手で卓越したダンサーを数多く擁する松岡伶子バレエ団、積極的な公演活動が目につく豊田シティバレエあたりも注目されていいだろう。関西の京都、大阪はバレエスタジオ・スクールの延長としてのカンパニーが多々あって首都圏では観られない意欲的な活動(日本人振付者の創作は首都圏よりも圧倒的に多い)も目につくが、規模と実績、知名度では名門の法村友井と躍進を続ける貞松・浜田には遠く及ばないようだ。
それにつけても思うのは20年前とは大幅に勢力図が異なっているということだ。80年代のバレエ雑誌等をみていると松山バレエ団、牧阿佐美バレヱ団という老舗がバレエ界を牽引していたことがわかる。松山は絶頂期にあり清水哲太郎の創作やヌレエフ版の導入、バランシン作品の上演と話題を振りまき、牧も多くのスターダンサーを擁し黄金時代にあった。いっぽうプロデューサー佐々木忠次の主宰する(チャイコフスキー記念)東京バレエ団ベジャール作品をレパートリーにいれ世界の5大歌劇場をはじめとした海外遠征も成功させている。状況が大きく変わったのは新国立劇場の始動(1998年)を境にしてだ。シーズン制を敷く新国立劇場バレエ団は確実にバレエファンの裾野を広げたし、熊川哲也によるKバレエカンパニーも熊川のスター性に頼る部分がおおきいものの分かり易さを前面に押し出した演出の古典全幕やアシュトン、バランシン作品などを多くの観客に披露した。他にもバレエ人たちが集って運営、のちにNPO法人となったNBAバレエ団、バレエスクールに始まってプロの団体として飛躍的に成長したバレエシャンブルウエストなど新興団体が躍進、これらの団体の活動がバレエ界を活性化させているのは間違いない。ただ、首都圏でプロの団体として活動するカンパニーは乱立気味という意見ももっともであり、この後各団体の活動がどう展開されていくのか予断を許さないものがある(当然のことながらほとんどの団体は民間の運営でありその熱意には頭が下がる)。まだまだ先のことだが、10年、20年先を考えると新旧入り乱れた日本のバレエシーンがどうなっているのだろうか。神のみぞ知る、というところか。