貞松・浜田バレエ団『コッペリア』

文化庁芸術祭での連続受賞、貞松融・浜田蓉子の橘秋子賞功労賞受賞のほか団員の相次ぐコンクール上位入賞と関西を拠点に全国的注目を浴びる貞松・浜田バレエ団文化庁助成も受けてのアルカイック定期公演第4回目には『コッペリア』全幕が上演された。堤俊作指揮・大阪シンフォニカー交響楽団の演奏も入っての普及公演。
貞松正一郎の演出・振付による版は、オーソドックスだが踊りとともにマイムを大事にし独自のアイデアも織り込んでいる。冒頭、前奏曲が流れ出すと幕が少し開き、コッペリウスが人形を完成させ仕上がりを確かめているような様子だ。続いてフランツとスワニルダがコッペリウスの家のベランダにいる人形をめぐっての恋のさや当て。マズルカや美人揃いのスワニルダの友人たちの踊りもテンポがいい。二幕のコッペリウスの家の中ではフランツとコッペリウス、そしてスワニルダの虚々実々のやりとりに手に汗を握らされる。部屋に置かれてた人形のなかには中国人形やピエロに混ざりキンシコウ人形も。団の地元、神戸の王子動物園キンシコウ(寒冷地に棲むサル)が飼育され親しまれていたことを踏まえてのようだ。『くるみ割り人形』(お伽の国バージョン)第二幕にも地元中国人街・南京町の獅子舞が登場するが、ローカル色も取り入れ、地元の多くの観客にバレエに親しんでもらおうという姿勢には好感が持てる。第三幕は王道の展開。時の踊り、あけぼの、祈り、仕事の踊り、コッペリウスと友人たち、若者の踊りを受けて主役カップルによる婚礼の踊りで大団円となる。この版最大の特徴は、コッペリウスの存在を大切にしていること。陰気なよそ者の老人といった面は強調されず人間味にあふれている。終幕ではフランツとコッペリアの婚礼を祝福。登場人物皆がいい人すぎる気はしないでもないが、底抜けに明るく後味のよい舞台に仕上がっていた。
この団の強みは団員の層の厚さ。主役級が脇に回って舞台を支えることは毎回のことだ。切れのある踊りでフランツを軽やかに演じた貞松正一郎、愛らしさと幅のある演技力をみせたスワニルダ役、上村未香のコンビは安心してみていられる。チャルダッシュ&祈りを踊った瀬島五月も華がある。あけぼののソリストのひとり廣岡奈美の踊りもプロとして魅せた。若者の踊りを踊った武藤天華も存在感十分。そしてコッペリウス役、井勝の老獪で人間味をにじませる演技がドラマに求心力をもたらし印象的だった。
(2008年9月23日 尼崎アルカイックホール)