ナチョ・ドゥアト スペイン国立ダンスカンパニー『ロミオとジュリエット』

平成20年度文化庁芸術拠点形成支援事業
ナチョ・ドゥアト スペイン国立ダンスカンパニー
ロミオとジュリエット

音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:ナチョ・ドゥアト
出演:スペイン国立ダンスカンパニー
(2008年11月24日 彩の国さいたま芸術劇場大ホール)

ナチョ・ドゥアト唯一の長編物語バレエ(1998年初演)。何よりもプロコフィエフの音楽の曲想を大切にしているのが特徴だろう。そしてシェイクスピアの原作にもほとんど忠実。マイムを排して徹底してダンスで、振付で登場人物の感情の機微を描きつくした雄渾の力作だとはいえる。振付に関して言えば音楽と物語の制約があるためか『レマンゾ』や『バッハへのオマージュ』でみせた、めくるめくような奔放な振付――意想外のフォルムの連続と緩急の絶妙の変化――はさほど感じられない。その点を期待すれば肩透かしにあう。ドゥアト自身もプログラム所載のインタビューで応えているように、彼の興味の方向性は既に別のところにあり、『ロミオとジュリエット』はかっての例外的な試みと捉えていいのだろう。物語バレエを創るにあたりダンスの凄みでみせた極北に位置する作品なのは確か。好みは分かれる気もするが、数あるダンス版『ロミオとジュリエット』のなかでも見応えのあるもののひとつといってもよいとは思う。