貞松・浜田バレエ団『くるみ割り人形』

貞松・浜田バレエ団クリスマス特別公演『くるみ割り人形
2幕8景(お伽の国ヴァージョン)

演出:浜田蓉子
振付:貞松正一郎/長尾良子
クララ:安原梨乃
お伽の国の王子:弓場亮太(奥村京子バレエスクール)
お伽の国の女王:竹中優花
お伽の国の王:アンドリュー・エルフィンストン
ドロッセルマイヤー:貞松正一郎
ネズミの王様:玉那覇雄介
雪の女王:廣岡奈美
指揮:堤俊作 演奏:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
(2008年12月21日 神戸文化大ホール)

神戸の貞松・浜田バレエ団では『くるみ割り人形』を2つの版で上演している。1989年初演版と2005年初演版。前者を「お菓子の国バージョン」後者を「お伽の国バージョン」と称している。設定や物語展開も違うものの最大の相違は「お菓子の国バージョン」ではワイノーネン版と同じくクララが金平糖も踊り、「お伽の国バージョン」ではクララと金平糖を別ダンサーが踊ることである。同団は東京の大手の団以上に主役級を文句なく踊れる踊り手を多数要するため、少しでもそういったダンサーの踊る機会を増やしたいというのも新版制作の狙いなのかもしれない。今年は新版である「お伽の国バージョン」を観ることができた(前日には「お菓子の国」バージョンを上演)。ねずみの王様が空の上から光臨したり、2幕のディヴェルティスマンには獅子舞やスノーマンが登場したりと楽しい趣向がいっぱい。演者は皆ノリノリで観客を楽しませようとしているのがよく伝わってくる。無論、踊りや演技もしっかりしている。クララを踊った安原は楚々で愛らしいというオーソドックスなクララ像とはひと味違って現代っ子ぽい奔放な感情表現を加えて魅力的。それを弓場亮太の王子が兄のように優しく支える。ドロッセルマイヤーの貞松正一郎は少女たちに慕われるようなダンディな雰囲気が素敵。ピエロの秋定信哉、トレパークの恵谷彰は超絶技巧を軽々と。お伽の国の王子と女王によるグラン・パ・ド・ドゥは竹中優花&アンドリュー・エルフィンストンだった。上記したように、貞松には優れた踊り手が目白押しである。プリマ級では、豊かな感情表現を持ち味とする至宝・上村未香、しっかりした技量を持ち常に安定したパフォーマンスを見せる正木志保、抜群にラインの美しい吉田朱里、踊り心に溢れ華のある瀬島五月、若手で急激な伸びをみせている廣岡奈美らがいるが、竹中の魅力は役柄・スタイルに応じた踊り分けが完璧にできること。バランシン、チューダーのようなネオクラシック、ナハリン、森優貴作品のようなバリバリのコンテを踊りこなし、さらには首都圏のモダンダンスのコンクールに出場した際や「創作リサイタル」における受賞者作品披露時に観ることのできたモダンバレエ的な現代舞踊でも独自のテイストを打ち出している。しかし、それ以上にすばらしいのは、そういった作品を踊りつつ原点であるクラシック・バレエをきっちり踊れること。均整の取れたプロポーションを活かして伸びやかなラインを紡いでいく。今回も最後の登場で作品を引き締める大役をしっかり果たした。踊りのよさは無論のこと、主役に相応しい華と風格が増していたのが印象的。久々に復帰した人気者アンドリュー・エルフィンストンとのペアはなんともゴージャスで会場を大いに沸かせていた。