佐多達枝・合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』に注目

本日(6月23日)付けの「讀賣新聞」東京本社版夕刊の文化欄「クラシック 舞踊」に「創作バレエ 50年の集成」と題して、7月4、5日、東京・錦糸町すみだトリフォニーホールにて上演される佐多達枝演出・振付による合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』の紹介記事が大きく掲載されています(取材・文:祐成秀樹氏)。
佐多は現在77歳。半世紀以上前から創作バレエの第一人者として精力的に活動してきました。ことに1980年代以降は傑作を連打。『女殺し油地獄』『或る女・葉子』『踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ』『父への手紙』『パ・ド・カトル』『ソネット』『ナギサカラ』『庭園』『わたしが一番きれいだった時』……。旭日小綬章紫綬褒章芸術選奨文部大臣賞のほか各舞踊賞を総なめにしており、栄誉を極めたかに思えます。しかし、発想鋭く動きの密度の濃い創作に対して、評価されたにしても国内的なものに留まってきた感。幸いにして近年、佐多の仕事をあらためて検証し、世界の同時代の舞踊シーンの先端で語り得る傑出した存在と評価する声が出てきたのは好ましく思います。
佐多個人のリサイタルは昨年で打ち止めとのことですが、今年は芸術監督を務めるO.F.Cにおいて敬愛するというバッハの大作に挑みます。舞踊と合唱と管弦楽を融合させた合唱舞踊劇では、オルフ『カルミナ・ブラーナ』をはじめとした秀作を生んできました。合唱隊にも踊らせます。「讀賣新聞」の記事のなかで佐多は“最初に踊りの基礎がない人に振りを付けるのは嫌でした。でも本番では、生の音楽に合せてひとつになれた”と語っています。今回は指揮者/カウンターテナーの青木洋也らバッハ演奏の専門家やオーケストラ、歌手、合唱隊、ダンサーら総勢140名による上演とのこと。
バッハ『ヨハネ受難曲』は、ヨハネ福音書をもとにイエスの受難を描く大作。自由詩のアリアとレチタティーヴォやコラールで構成されています。仄聞するところ今回新バッハ全集における40曲の版を使用するようで、第1部14曲、第2部26曲となり演奏時間約1時間50分(第1部35分、第2部75分)。上演時間は佐多作品中おそらく最長となる模様で、40曲中ほとんどのパートに踊りが入るようです。O.F.Cでの佐多の仕事はまず音楽、合唱を尊重したものとなります。振付的にも個人リサイタルで発表してきたものに比べると比較的オーソドックスなバレエ寄りかもしれません。しかし、歌詞と音楽を緻密に分析し視覚化、躍動感あふれる唯一無二の舞台を創りあげてきました。
ヨハネ受難曲』は台本がドラマティックであり、佐多作品に多く見られるコロス的な群集処理など見せ場が豊富。ダンサー陣も堀内充、島田衣子、関口淳子、穴吹淳、石井竜一、後藤和雄、武石光嗣ら日本の舞踊界を代表する俊英メンバーと佐多が手塩にかけて育てたスタジオの気鋭が揃っています。合唱隊もO.F.C設立から10年を経て佐多の要求する動きにも相応に耐えられるようになってきているでしょう。“人間の愚かでひた向きな姿を通して「願い」のようなものを伝えたい”と抱負を語る佐多。巨匠でありながらも飽くなき情熱を絶やさないのは素敵な限り。入魂の一作となりそうです。