千日前青空ダンス倶楽部の最新作『アカイノノハナ』

土方巽らの生み出した舞踏は、現在のコンテンポラリー・ダンスにも大きな影響を与えています。1990年半ば以降大ブレイクした伊藤キム、山崎広太は舞踏出身であり、彼らの存在・作風がネオ舞踏と称された時期もありました。土方に師事、麿赤兒大駱駝艦の旗揚げにも参加した伝説的舞踏家・室伏鴻も2000年のソロ『edge』以降、舞踏とコンテンポラリーな感性を掛け合わせたダンスによって独自の存在感を示しています。昨年のトヨタコレオグラフィーアワード大賞を得た気鋭・鈴木ユキオも舞踏出身。
舞踏とコンテポラリーの境界が緩やかな現在、関西を拠点に活動しポップな作風と内面表現豊かなダンスを特徴に異彩を放つ舞踏ユニットが千日前青空ダンス倶楽部です。主宰は土方直系・北方舞踏派出身の紅玉。踊り手は全員女性です。2000年の旗揚げ以降内外各地で公演を行い、東京では2002年『夏の器』、今年3月『水の底』を短縮版ながら上演しています。新作『アカイノノハナ』は精華演劇祭参加作品。
銅版?のオブジェの前でときに繊細にときに激しく踊る。ストリップ小屋の楽屋を思わせるうらぶれた場で2人が紅い舌を出しながら西瓜を舐める。4人がフープのようなものを回しながら踊る。片足ハイヒールで踊り水辺で口から白い玉を吐き出すソロ。ドラム缶のなかから踊り手たちが現われ、ゴロゴロ転がり、やがてそこに最後に天井から無数の白い玉が落ちてくる終幕。静謐であったり、混沌としていたり、エロティックであったり、耽美的であったり、ノスタルジックであったりと多彩な展開に惹かれます。連綿と、いつ果てるともなく回り巡っていくような、めくるめくイメージの織りなす小宇宙。
ここで見落とせないのが、単に漠たるイメージや想念を羅列したものではないということ。踊り手たちの身体が核にあって、それを中心にイメージが雄弁に立ち上がっていきます。水をめぐるさまざまの記憶やイメージを、幻想美とリアルの狭間に浮き上がらせた『水の底』(2006年初演)も傑作でしたが、今回の『アカイノノハナ』からは、より多彩なイメージが確かな実存を伴い奔流のごとく迫ってきて目を離せませんでした。
ベテラン稲吉以外はメンバー変遷を経ていますが、関西の若手注目ダンサーが常に加わってカンパニーを活性化しています(かつては福岡まな実、きたまりも在籍)。今回は、銅版?とドラム缶を使った褐色の錆びた色調のオブジェを造った川井ミカコ、微細に抑えたトーンのなかに陰影に富んだ照明を当てた吉本有輝子らスタッフの仕事が特に傑出しており、一層奥行きのある世界を生んでいたように感じました。関西の生んだ愛すべき実力派カンパニー。機会があればぜひ多くの人に観てほしいと思います。
千日前青空ダンス倶楽部のインタビュー動画↓
http://www.hatch-amp.com/index.php?ca_id=11&mv_id=701

芸術文化振興基金助成事業・精華演劇祭参加作品
千日前青空ダンス倶楽部『アカイノノハナ』            
構成・演出・振付:紅玉 
出演:稲吉/あやめ/小つる/ぼたん/日向/かがり
舞台美術:川井ミカコ
sound:ORGAN
題字:紫舟
衣装製作:山本容子
舞台監督:大田和司
照明:吉本有輝子
音響:秘魔神
宣伝美術:升田学(アートーン
(2009年7月17〜19日 大阪・精華小劇場)