今夏の創作バレエ

例年7、8月は連日舞踊公演が目白押しです。今年は3年に1度の「世界バレエフェスティバル」も開催されます。世界各地で活躍している日本人ダンサーがシーズンオフのため帰国して公演や発表会に出るのも夏シーズンのみどころ。話題尽きないダンスシーンですが、ここでは、この夏上演の創作バレエについて触れたいと思います。
創作“バレエ”といいつつなんなのですが、この夏最初に大きなインパクトを与えてくれた創作公演として佐多達枝演出・振付による合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』(7月4、5日 すみだトリフォニーホール)が挙げられます。イエスの受難を描く大作であり、半世紀を越えるキャリアを誇り数々の名作を放ってきた巨匠の集成でした。そして、東京シティ・バレエ団が新制作した『ロミオとジュリエット』(7月18、19日 ティアラこうとう)も話題の公演。近年の中島伸欣・石井清子のコンビ作では『真夏の夜の夢』『カルメン』に続くものであり、多様な観客層に訴求する創作物語バレエ路線は健在です。同バレエ団は古典に加え創作に力を入れるカンパニーとして貴重な存在といえるでしょう。
夏恒例の日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」(7月18日 新国立劇場中劇場)でも創作バレエが発表されました。今年は高部尚子『ウエスタンゲート』、坂本登喜彦『Proud-彼女たちの誇り-』という夫妻の競演が話題に。中堅の坂本、まだ2作目の高部。両者ともさらなる活躍が期待されます。昨年のこの会では、下村由理恵振付のシンフォニック・バレエ『Bizet Symphony』が上演され、下村&佐々木大、島田衣子&法村圭緒というスターの競演もあり注目されました。古典的完成度とバランシン以後のシンフォニック・バレエに相応しい精密さ備えた佳品です。それが先日早くも名古屋の松岡伶子バレエ団アトリエ公演(7月19日 愛知県勤労会館)にて再演されました。この会では同時に下村の公私のパートナー篠原聖一振付『Got Gershwin Tonight』も上演。ガーシュウィン曲を用いた洒落た作品です。篠原はフリー振付者として精力的に活動しており、日本の創作バレエを語る際欠かせない存在のひとりでしょう。
今夏今後行われる舞台では大坂の「バレエスーパーガラ」(8月2日 グランキューブ大阪)において矢上恵子、石川愉貴作品が上演されます。豪華出演者が話題ですが10回の歴史のなかで関西バレエの振付者を取り上げてきた実績は見逃せません。また今年の同公演では、かつてローザンヌ国際バレエコンクールにて振付賞を獲得したこともある田中祐子が自作ソロを発表。北海道でもガラ公演が行われ佐多達枝新作やラ ダンス コントラステの佐藤宏の創作が発表されるとか。フリーランスで活動する深川秀夫も各地の公演に作品提供するようです。そして山梨・清里で行われる「清里フィールドバレエ」(7月27日〜8月9日 萌木の村特設野外劇場)においてバレエシャンブルウエストによる創作全幕バレエ『タチヤーナ』が上演されるのも見逃したくないところ。
日本では創作ものは動員が難しい。多大な労苦を払い発表にこぎつけても、儚い一瞬の夢として散ってしまう…。来日バレエやコンテンポラリー・ダンスばかり話題になりますが、日本の創作バレエに少しでも陽があたることを切に願うばかりです。