アキコ・カンダ モダンダンス公演「おもかげ」

現在のダンスシーンにおいて注目されるのは、今日的な感覚に富んだもの、形式面の新しさを打ち出したものです。現代音楽や現代美術同様に芸術思潮の流れからして当然のことであり、モダンはポストモダンに、ポストモダンはコンテンポラリーに乗り越えられるのは歴史の必定かもしれません。しかし、感動ということを考えると話は違ってきます。感動は形式の新しさとは別の次元に存在するもの。感動を生むダンスの多くには、長年の修練の果てに得た技量と磨き上げられた美意識が刻印されています。
アキコ・カンダの舞台には感動があります。カンダは若き日にマーサ・グレアムに師事、その経験に基づきアメリカンモダンダンスの精髄とカンダ独自の感性を融合させ今日に至ってきました。いわゆる現代舞踊=ジャパニーズモダンダンスとは趣を異にします。コントラクションやリリースといったグレアムメソッドから生まれた上半身のラインに力強く、野生的で大らかさを感じさせつつ透徹したストイックな世界が特徴。
今年のリサイタルは2部構成。第1部ではカンダの珠玉のソロ『想い出は陽炎のように』を挟み、『マルチ・ブレーン』『夜の回廊』という群舞作品が上演されました。『マルチ・ブレーン』は、キューバ生まれのマンボ王として知られるペレス・プラード曲にあわせ息尽かせぬ密度の群舞を展開。新作の『夜の回廊』では、チャイコフスキーの抒情豊かな曲にのせ詩的な世界観を表現しました。第2部は「おもかげ」(1993年初演)。「早春賦」に始まり「もみじ」「ふるさと」「赤とんぼ」など童心あふれる日本の名曲にのせ、観るもののノスタルジーを喚起、心に染み入る味わい深い作品に仕上がっていました。
カンダの踊り、創作するダンスは、生命や自然の美しさを力強くかつ叙情的に伝え、観るたびに心洗われます。理屈でなく心で体で感じる深い感動!カンダの師グレアムが言ったとされる“いいダンスか悪いダンスしかない”に照らせば、カンダのダンスは、いいダンス、感動があり強い美学に裏打ちされた、至高のダンスといえるでしょう。
(2009年8月7日 青山円形劇場)