第12回世界バレエフェスティバル Aプロ・Bプロ

待ちに待った第12回世界バレエフェスティバルが公演中。A・Bプロを観てまず思ったのは、やはりこれだけのトップスターが集る場は得難い!ということ。1980年代後半から活躍してきた大物ダンサーたちが一堂に会する機会は、残念ながら今回がひょっとすれば最後になるのかも…。そして、上演レベルはやはり極めて高い!ベテランたちの自在な境地、中堅層の躍進、若手気鋭の清新さを一度に味わえました。
常連組では、まずシルヴィ・ギエム&ニコラ・ル・リッシュが目を引きます。マリファント『クリティカル・マス』&エック『アパルトマン』を踊り、前者では精度の高い動きを、後者では意想外かつ機知に富むダンスを披露して独自の境地を示しました。マニュエル・ルグリはオーレリ・デュポンと組んでノイマイヤー『椿姫』より第1幕のパ・ド・ドゥ&キリアン『ベラ・フィギュラ』を、ウラジーミル・マラーホフはディアナ・ヴィシニョーワと組んでビゴンゼッティ『カジミールの色』&プレルジョカージュ『ル・パルク』を披露、現代バレエの一線を行く振付家の創作を踊ってバレエの現在形を存分に伝えてくれました。
中堅では英国ロイヤル・バレエのタマラ・ロホが演技力・技術力とも劇的に進化していて驚かされました。Aプロでは異色のコンテ・ソロ『エラ・エス・アグア ‐ She is Water』(ゴヨ・モンテロ振付)を熱演。Bプロではフェデリコ・ボネッリと組んで『エスメラルダ』を踊りました。グラン・フェッテでの驚異的な回転、10数秒に及ぶ文字通り微動だにしないバランス技を行うもケレン味はそれほど感じさせず古典の品格は保持しています。同じく英国ロイヤル・バレエの若き名花アリーナ・コジョカルは『コッペリア』『マノン』第一幕のパ・ド・ドゥをヨハン・コボーと踊って美しいラインを披露、健在を示しました。
常連ベテランのアンドレイ・ウヴァーロフと組んだスヴェトラーナ・ザハーロワは、なんとバレエフェス初登場!彼女の存在が今回のバレエフェスを一層格調高いものにしたのではないでしょうか。新国立劇場への客演やマリインスキー・バレエボリショイ・バレエの来日公演を通じてザハーロワを観る機会は少なくありませんでした。言葉は悪いですが食傷気味といっていい位に。しかし、世界の幅広いカンパニーや地域の踊り手たちの集うバレエフェスという場においてロシア・バレエの王道を行く揺るぎない品格溢れる演技を示し格別の存在感。怪我のため前回のバレエフェスに出られなかったシュツットガルト・バレエを代表するトップ・プリマ、マリア・アイシュヴァルトも初出場!人気者フィリップ・バランキエヴィッチと組んだBプロの『オネーギン』第3幕のパ・ド・ドゥにおいて哀切極まりない演技をみせ圧倒的な感動を誘いました。
若手ではロシア系が大活躍。マリア・コチェトコワ&ダニール・シムキンがバランシン『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』&『パリの炎』を披露、超絶技巧の数々で会場を沸せました。シムキンは脚を開いたままで空中を旋回しながら跳躍したり、高速で回りつつ滑らかに減速するピルエットなど神懸かり的テクニックを平然と優美に音楽的にこなします。コチェトコワも後者における跳ねながらのグラン・フェッテなどで魅せました。ボリショイの新星ナターリア・オシポワはマリインスキーのレオニード・サラファーノフと組み『ドン・キホーテ』『海賊』を踊りました。後者では、ありえない位高い跳躍をみせ圧巻。
他にもオーストラリア・バレエやハンブルク・バレエからの踊り手は自家薬籠中とするレパートリーを危うげなく踊ってくれましたし、Aプロではベルニス・コピエテルスと、Bプロではエリザベット・ロスと組んで永遠の青年ぶりを発揮してくれたベジャール・バレエのジル・ロマンの好演も光りました。パリ・オペラ座のアニエス・ルテステュ&ジョゼ・マルティネズはマルティネズ作品&フォーサイス作品において手堅い演技。ポリーナ・セミオノワ&フリーデマン・フォーゲル組も新生面を見せてくれました。ヤーナ・サレンコ&ズデネク・コンヴァリーナ組は、Aプロでは今ひとつでしたがBプロの『コッペリア』で持ち直し。わが日本から出場した東京バレエ団上野水香は、お似合いのマチュー・ガニオと『ジゼル』第2幕よりを、デヴィッド・マッカテリと『白鳥の湖』第2幕よりを踊り、美しいポーズと堂々とした存在感をみせ世界のトップと渡り合い健闘していました。
数々の歴史的な名演や伝説を生んできたフェスティバルからすれば、今回のA・Bプロにおいてそれに比肩する演技があったかどうか分かりません。判断は人それぞれでしょう。しかし、Bプロの第3部など白熱のパフォーマンスが次々と続き会場は盛り上がりました。演者としても特別な緊張感を抱いての演技だったのではと思います。並大抵のガラ公演では起こり得ない、尋常ならざる力が働いていたのは確かでした。
(2009年8月4日(Aプロ)、10日(Bプロ) 東京文化会館)