国際水準のレパートリー導入についての考察

来る9月、韓国の2大バレエ団が世界的巨匠の代表作を相次いで初演することが話題を集めています。韓国国立バレエは、ボリス・エイフマン振付『チャイコフスキー』をゲストにウラジーミル・マラーホフを迎えて上演。民間で資金が潤沢とされるユニバーサルバレエは、ジョン・クランコ振付『オネーギン』を上演します。エイフマン作品に関しては来春、新国立劇場が『アンナ・カレーニナ』を新制作しますが、クランコの『オネーギン』に関しては、同じアジアの国として先を越されたか、との思いが拭えません。
韓国国立バレエは、ユーリー・グリゴローヴィッチ版『白鳥の湖』『スパルタクス』やジャン=クリストフ・マイヨーの『ロミオとジュリエット』『シンデレラ』をレパートリー化しており、ユニバーサルバレエは、ナチョ・ドゥアトやオハッド・ナハリンらの作品を上演しています。中国の中国国立バレエもローラン・プティ作品に加え、クランコの『オネーギン』も近々上演予定。日本はバレエマーケットとして世界有数ですが、国際水準のレパートリー上演に関しては、韓国や中国に追いつき追い越されつつあるのが現状でしょう。
日本のバレエ界として痛恨なのは、クランコの『オネーギン』を先に上演されることでしょうか。東京バレエ団の代表である佐々木忠次は、その著書「闘うバレエ」において、『オネーギン』の上演をアタックしても上演権を保持するクランコ財団の許可がなかなか下りなかった旨を記しています。東京バレエ団モーリス・ベジャールの代表作を軒並みさらっていったことに対し、欧米のカンパニー等は忸怩たる思いがあり、各団体・機関は警戒しているのでは、というのが佐々木の弁。日本が国際的なバレエマーケットである以上、そこに存在するカンパニーにドル箱作品を渡したくないというのも分からなくはありません。韓国や中国のカンパニーに対するのとは事情が異なるのは確か。
とはいえ、日本のカンパニーも手をこまねいているわけではありません。版権が切れたためか現在レパートリーから外れたものの新国立劇場はケネス・マクミランの代表作にして物語バレエの傑作たる『マノン』『ロメオとジュリエット』を上演。東京バレエ団は今秋、欧米の有力カンパニーが上演するナタリア・マカロワ版『ラ・バヤデール』を新制作し、来年春にはフレデリック・アシュトン振付『シルヴィア』も初演します。同じくアシュトンの『真夏の夜の夢』も既にレパートリー化。こういった優れた作品を自団およびゲストのダンサーを迎えて上演を続ければ、安定した集客を見込めます。前記の『オネーギン』やジョン・ノイマイヤーの『椿姫』も同様のポテンシャルを秘めており、こういったレパートリーを導入し継続して上演できれば間違いなく「勝ち組」となるでしょう。
韓国国立バレエが一足早くレパートリー化しているマイヨー作品に関しては、複数の日本のカンパニーが上演に向けアタックしている模様(「ダンスマガジン」2009年5月号掲載のマイヨーのインタビューより)。『オネーギン』『椿姫』の日本のバレエ団初演も近い将来に実現するのではないでしょうか。オリジナルな古典新演出や物語バレエの誕生にも期待したいですが、国際水準で定評あり多くの観客に感動を与え得るレパートリー、ことに物語バレエの導入には今後も注目していきたいところです。