五耀會 東京公演

日本舞踊は、日本のさまざまの古典芸能の集成でありながら、バレエやオペラ同様、舞台上で上演することを目的とした舞台芸術です。しかし、現代において、その魅力が広く人口に膾炙しているといえないのが現状でしょう。そういった状況に風穴を開けるべく結成されたのが五耀會です。西川箕乃助、花柳錦之輔、花柳基、藤間蘭黄、山村若という、名実ともに日本舞踊界の次代を担う舞踊家5人が流派を超えて集いました。3月、大阪での旗揚げ公演を経ての、満を持しての東京公演です。古典名作から創作、新作まで幅広い演目が上演され、日本舞踊の多彩な魅力を伝えていました。
第一部最初は、地唄『葵の上』。座敷舞の伝統をもつ座敷舞であり、謡曲「葵上」をもとにつくられた本行物です。上方舞のニューリーダーである山村若が至芸を披露しました。続く義太夫長唄『浜松風』は、手踊りや立ち回りなど歌舞伎舞踊ならではの手法が全編を彩るもの。出演は藤間蘭黄、西川箕乃助です。蘭黄の女形が艶やかで見物でした。第二部の長唄『一人の乱』は、1985年初演の二世花柳壽楽作品。平安中期、敵対しつつ互いの武勇を尊重しあう源頼義と阿部宗任の友情を描きます。花柳寿楽と花柳基が紋付袴の簡素な衣装姿ながら緻密にドラマを展開しました。第三部は、メンバー総出演の新作『七福神船出勝鬨』(作・演出:植田伸爾)。戦争を続け、大恐慌下にある人間界を憂う七福神が、下界を救うため宝船を漕ぎ出す――レビューのような楽しさを備えつつ、今日の世界状況を織り込んだ、楽しめ、考えさせられる一編でした。
開演前や幕間には、アナウンサーで日本の伝統芸能に造詣深い葛西聖司による解説が行われました。日本舞踊を舞台芸術として身近に感じてほしいという会の趣旨を反映して、みどころを分かりやすくレクチャー。義太夫長唄囃子方等も多数出演する、本格的・大規模な会でありながら、チケット代が破格ともいえる値段に抑えられていたのも注目に値します。HPの開設、バレエ公演等でのチラシ配布やプレイガイドへのチケット委託といった営業努力や、大手紙等に事前取材記事が載るなどした広報活動にも並々ならぬ意欲を感じさせました。これは、邦舞のみならず、バレエや現代舞踊等の洋舞の公演のあり方についても示唆に富む挑戦。さらなる展開が注目されます。
(2009年9月14日 国立劇場大劇場)