小島章司フラメンコ2009『ラ・セレスティーナ〜三人のパブロ』

今秋、フラメンコ界からはじめて文化功労者に選ばれた小島章司がほぼ毎年恒例となっている11月末の公演を行いました。今回小島が挑んだのは、15世紀ルネッサンス期のスペイン古典文学『ラ・セレスティーナ』(11月27日〜29日 ル・テアトル銀座)。
フェルナンド・デ・ローハスによる原作は、散文による小説風の戯曲です。貴族の青年カリスト、貴族の令嬢であるメリベーアの激しい肉欲に満ちた恋が描かれますが、それを仕向けることになるのが妖術を用いる娼家の女将セレスティーナ。ドラマティックな悲劇を、パブロ・ピカソの画集「ラ・セレスティーナ」を出発点として構想し、1973年に相次いで死んだピカソ、パブロ・・ネルーダ(詩人)、パウ・カザルス(チェロ奏者)という“3人のパブロ”に捧げられた意欲作となりました。4回公演の最終回を観ましたが、とにもかくにもドラマティック。物語バレエならぬ物語フラメンコ、ドラマティック・フラメンコの極点というものはかくやという素晴らしい出来ばえに涙。ことに後半、場を追うごとに悲劇の結末へ向けて奔流のごとく畳み掛けていくダイナミックな展開に圧倒されました。
小島が演じたのがセレスティーナ役。奸智に長け老獪・海千山千、一筋縄ではいかない曲者の老婆という役柄であり、精神性高いと評され、まさに求道者のようにストイックな踊りの印象の強い小島にとって今までにない挑戦だったと思います。巨匠にしてこの大胆な冒険心!振り付け・演出にスペイン屈指の振付師ハビエル・ラトーレを招き、自身は演者として作品の一要素に徹したのもトータルな舞台芸術としての完成度を高めようとする姿勢の表れに他ならないと感じました。なかなかできることではないでしょう。ゲスト・バイレやカンテ、ギター、チェロ、パーカッションら本場からのキャストはいつもながらですが門外漢であっても一流だと感得できる素晴らしい人たち。作曲はおなじみチクエロのオリジナル、美術も名匠・堀越千秋。舞踊団のアンアンブルも前作『越境者』のとき以上に生き生きとした心の底から表現して踊るダンスをみせて充実していました。年度末の最後の最後に大変な力作、感動作が誕生した感があります。
以下、ご紹介するのはスペイン版「ロミオとジュリエット」とも称される「ラ・セレスティーナ」映画化版のDVDです。今回の公演プログラムに寄せられているスペイン演劇研究の第一人者:古屋雄一郎氏の文章において触れられていました。今をときめくスペイン人アカデミー賞女優ペネロペ・クルスの主演作です。私もこれから観ようと思います。


情熱の処女~スペインの宝石~ [DVD]

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