この秋冬、小スペース公演に成果〜厳しいなか頑張る創り手たち

行政刷新会議の「事業仕分け」問題で揺れ、不況の最中ですが、この秋・冬は例年同様、いや印象としては例年以上にバレエ・ダンス公演が行われているような気がします。年が明けても3月いっぱいまで大小さまざまの公演が相次ぎます。スケジュールを確認すると、自分でも驚くくらいの数の公演を観た・観る予定。諸般の事情から見逃したりパスしたものも少なくないのに…。公演ラッシュ、盛況は何よりですが、これだけ公演が続くと、個々の公演に対しての印象は薄れ気味になり、メディアにも取り上げられにくくなるのはいたし方ないかも。ここでは、今秋行われたもののなかから小スペースでの意欲的な公演をシリーズもの中心に振り返っておきます(基本的に日程順)。
芸術祭賞等を獲得し、本年度の松山バレエ団芸術奨励賞も受賞した重鎮・本間祥公が主宰する本間祥公ダンスエテルノ・シリーズvol.2〜vol.4(9月15日、10月20日、12月5日所見 Super Deluxe)では、本間による振付・出演作品のほかカンパニーのメンバー中心とした若手の創作を発表しています。本間が太宰治の小説に取材し、飄逸な味わいで楽しませる『饗応夫人』、東京新聞主催「全国舞踊コンクール」創作部門第一位を獲得した山口華子による若い感性と創意ある作舞が特長的な『デカルコマニー』『嵐の朝』、大人の間の距離や感情の揺らぎ巧みに捉えた長谷川秀介『ネガチーフ』等の佳作が登場。お洒落なクラブ風の会場を舞台に、モダンやコンテといった枠を軽やかに超えて、新たな感性の息吹を感じられる企画として着実な成果をあげました。
年3回ほどの公演を催し積極的な活動を行うダンスカンパニーカレイドスコープ「Members Show Case」(9月19、26日所見 Dance Brick Box)は、神奈川は南林間にあるスタジオでの公演。主宰の二見一幸の振付作のほか、カンパニーメンバーの中堅・若手クラスが創作発表しました。このカンパニーは文化庁の文化芸術振興費補助金を受けての公演も行い、二見一流の豊富な舞踊語彙と緻密な構成による水準の高い創作を発表していますが今回は手弁当の企画。二見含め7人が作品を出しました。メンバーは踊るだけでなく創ることによって自身の他の面を見出すことができますし、振付者として本格的に育つ人も出てくるかもしれません。本公演については媒体に依頼され評を書きました。個々の作品については厳しい指摘もしましたが、新作発表、旧作再演に加え人材育成にも熱心に励む二見の真摯な仕事ぶりには頭が下がります。
フラメンコの分野で積極的な創造活動を行っているグループもあります。鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団(ARTE Y SOLERA)プロデュースdesnudo フラメンコライブ(10月28日、12月9日所見 ムジカーサ)は、個人的にはいま、もっとも見逃せないラインナップです。会場は音楽小コンサート用の素敵な空間で、客席との密な対話が可能ですし、生声や生演奏との相性もばっちりです。8月にはvol.4として今秋文化功労者に選ばれた小島章司を迎えて「小島章司 魂の贈り物」を開催し大きな反響呼びました。この秋、vol.5ではジャズやサルサという、通常のフラメンコでは用いられない曲にあわせ鍵田、佐藤が生演奏で踊る『愛と犠牲』、vol.6では、ドゥクフレ、シェルカウイらの作品に参加するダンス/サーカスダンスのアーティスト、アリ・タベと鍵田のデュオを発表。12月公演では異才のタベと踊った鍵田のフラメンコの枠を超えたダンスが新鮮であり、両者のケミストリーが異様ともいえる熱気と感動をもたらしました。
関西を拠点に内外で多様な活動を行っているmonochromecircusの活動も見逃せません。幸いにも本拠地・京都での公演をみることができました(11月6日所見 アトリエ劇研)。上演されたのは同カンパニーが近年手がける「掌編ダンス集」。主宰の坂本公成による短編・中編の作品シリーズです。川端康成の「掌の小説」にちなみ時間的制約に縛られずに創作していくスタイルであり、ソロはじめカルテットなど多彩。ダンサーの個性や身体を生かした作品を内外で再演するたびに練り上げ、クオリティの高さは折り紙つきです。京都公演ではダンサーを変えて再演を繰り返す『怪物』、合田有紀の異形的身体性が際立った新作『neighbor』、坂本の監修によるグルーピングワーク『レミング』(新作)を上演しました。芸術祭参加公演ということなので、手の内に入ったレパートリーを並べたほうが有利でしょう。そういった欲はなかったのか単に後付で参加しただけなのかわかりません。いずれにせよレパートリーを進化させつつ意欲的に新作発表、ダンサーたちの個性を引き出そうとする坂本の姿勢に感銘を受けました。
コンテンポラリー・ダンス界のゴッドマザーこと黒沢美香は黒沢美香&ダンサーズ「ミニマルダンス計画――起きたことはもとにもどせない――」(11月30日、12月3、6日所見 こまばアゴラ劇場)を行いました。ポストモダンの影響を顕著に受けた、過剰さを排したミニマルに徹する姿勢はストイックそのもの。しかし、そのシンプルななかに豊穣な時間が流れています。そして、常に予断を許さないスリリングな展開があって目が離せません。黒沢美香を見るということは、すなわちダンスを観るという行為を通し常に新たな価値観と出会うことではないでしょうか。黒沢の舞台を観るたびに自分が一ダンス小僧に戻れると実感します。近年、ダンサーズのメンバーの個性・年齢差も広がって、パフォーマンスの多様さ・奥深さがさらにましてきた感があります。今回の黒沢のソロ『耳』、新作グループワーク『膝の火』、おなじみ『jazzzzzzzz-dance』の連続上演は、今年のコンテンポラリー・ダンス最良の成果として記憶されるべきに思いました。
このほかにも酒井幸菜solo exhibition & performance『In her, F major』(10月12日 LIFT)、神村恵新作ソロ『次の衝突』(10月17日 現代美術製作所)、深谷莉沙「無口な少女、饒舌な洋服棚」Closing Show(10月18日 Sub museum)、根岸由季『HONNIN』(10月28日 現代HEIGHT)、高襟『浮気姉妹』(11月9、11日 Dance Studio UNO)など。内田香Roussewaltz『note』(11月29日 Super Deluxe)はこの頃同会場で定期的に公演を持つグループらしくセンスよく手ごたえある内容ですが、大きな劇場での一晩もののパフォーマンスもやはり見たいところ。Annex Sengawa Factory「09 Dance Performance Program」(10月31日 アネックス仙川ファクトリー)は、公演活動に加えさまざまのイベント企画を展開する加藤みや子が久々に行った若手のスタジオ公演であり、今後の展開に注目といったところです。