師走の舞踊界に思う

今年もあっという間に一年が過ぎ去ろうとしています。
毎年年度末になると舞踊専門紙誌から年間ベスト5や印象に残った公演を挙げよというアンケートをいただきます。一年を振り返ると、限りないダンス公演が行われており、舞踊界は盛況に思えるかもしれません。師走12月など恒例の『くるみ割り人形』上演含め全国各地で相当な数の舞踊公演が開催されます。しかし、不況は続き、舞台芸術界にも暗雲立ち込めています。舞踊も対象とした朝日舞台芸術賞は休止に。晩秋には、行政刷新会議事業仕分け」による文化予算削減への提言が関係者や舞台芸愛好家に衝撃をあたえました。2010年のダンスシーンはどうなるのでしょうか。
暗い話題ばかりでなく、明るいニュースや新たな展開を予感させる動きについて触れておきましょう。文化功労者に小島章司、紫綬褒章勅使川原三郎、下村由理恵と洋舞関係から相次いで選ばれたのはうれしい出来事でした。バレエ界では女性振付家を中心に創作の秀作がいくつか生まれ、踊り心・演技心溢れる中堅・若手プリマが伸びてきたのが個人的には印象に残りました。コンテンポラリー・ダンスでは久々の大規模なフェスティバル「ダンストリエンナーレ トーキョー2009」が行われ盛況。全国各地で公演を展開してきたJCDN「踊りに行くぜ!!」も10回目を迎えています。一時期ほど大型新人は出ていない印象ですが、ベテラン・中堅・若手があまねく公演を行って相対的な水準、質は大きく向上。現代舞踊界でも異例の若手抜擢等が相次ぎ、小スペース中心に精力的な自主公演を行う個人・グループも出てきており動向が注目されます。フラメンコも小島章司や小松原庸子といった大家の次の世代が台頭しており心強い限り。
優れた舞台芸術は一朝一夕には生まれません。時間をかけて育まれるもの。そして、その価値はすぐに金銭で計れるものではない。日本の舞踊界は厳しい条件のなか本当によくやっていると頭が下がります。“(公的な助成による)人材育成は不要”“芸術は自己責任”といった事業仕分け人のコメントに怒りを覚えた舞台芸術関係者は数限りないでしょう。今後求められるのは、芸術は水や空気のように人間にとって必要なものだということを行政だけでなく広く社会に訴えていくこと。質高い内容の活動を目指すのは当然として、社会のなかでアーティストとして何ができるのか常に問う自覚を一層持つ必要があるのでは。ジャーナリズムはもとより観客・納税者の立場からも厳しくも暖かいチェックとフォローが行われアートシーンを刺激していくことが望まれます。