服部有吉の現在

先日行われたバンクーバー冬季五輪の開会式にアルバータ・バレエが出演。同バレエ団に所属するダンサー/振付家服部有吉も登場して、テレビ放送でも紹介されていたようです。服部は、2004年〜2007年にかけて夏に日本で公演を行い、『盤上の敵』『藪の中』等の秀作を生み、2005年のハンブルク・バレエ来日公演では、『冬の旅』の主演等で目覚しい活躍を見せました。ハンブルク・バレエを経てアルバータ・バレエに入ってもダンサーとして活動する傍ら『七つの大罪』を振付けるなど創作活動も行っています。師であるノイマイヤーの下を離れ、新天地で活動していますが、ハンブルク・バレエが『ニジンスキー』を再演した際に客演したというニュースも報じられました。
邦人のバレエ系の振付者も新世代が躍進していますが、ポスト金森穣といえる強固な存在が出てきてほしいところです。欧米の一線で学んだキャリアを誇り、しっかりとしたスキルにコンテンポラリーな感覚と構想力を備えた才能は希少です。それに当てはまる数少ない感性のうちのひとりが服部なのは間違いないでしょう。服部の能力の高さは旧作からも十分うかがえ、ことに音楽芸能一家育ちだからかもしれませんが、音楽センスが抜群。2007年にラスタ・トーマスや辻本智彦ら多彩なキャストで上演した話題作、シンフォニック・バレエ『ラプソディ・イン・ブルー』の拙評を引いておきます。

何よりも評価すべきは服部の卓越した音楽性と自由闊達な作舞。シンフォニック・バレエといっても音楽の構造に囚われることも楽曲の構想や主題に依拠することもない。服部の、音と音、フレーズとフレーズの間を捉える嗅覚は非凡。動きをただ譜面に合わせるという陥穽には陥らない。自身の創る動きに対し音楽がどう響くのかを本能的に思考できる逸材だ。
(「オン・ステージ新聞」2007年7月6日号 1面)


海外、そして、日本において振付家としてのさらなる活躍が期待されますが、まだ若いだけに踊り手としての可能性も大切にしてほしいアーティストです。ハンブルクからアルバータへと移籍したのも新たなレパートリーに出会いたいという思いが強かったのかも。今後、日本での活動に際しては、優れた才能を安易に消費しない制作体制が求められ、ジャーナリズムも拝外主義から崇め過剰に持て囃すというような事態に陥らないように気をつけなければいけないでしょう。己のキャリアは自分の力で切り開いてきた服部のこと、今後の歩む足取りも地に足着いた確かなものになると信じています。