貞松・浜田バレエ団「ラ・プリマヴェラ〜春」

2年に1度行われる神戸の貞松・浜田バレエ団特別公演「ラ・プリマヴェラ〜春」は8回目。バレエの多様な魅力に触れられる公演として見逃せないものがある。
三部構成の第1部は、バレエ・コンサート。『オープニング』(振付:貞松正一郎)では、オスカー・シュトラウスヨハン・シュトラウスの華麗で軽妙なメロディにのせた団員たちの踊る喜びが伝わってきた。座付き作者の手によるものだけに、団員の個性や長所をよく引き出しているものと思われる。ことに若い男性ダンサーの躍進が光った。その後、半井聡子&塚本士郎による『タリスマン』(振付:マリウス・プティパ)、佐々木優希の踊る『回想』(振付:リン・テイラー=コルベ、改定振付:浜田蓉子)、廣岡奈美&武藤天華が踊った『カントリー・ガーデン』(振付:マイケル・ヴァーノン)と続く。『回想』は、内奥からあふれる想いを踊る女性ソロ。『カントリー・ガーデン』は、バレエ・ファンにはなじみ深いエロルド作曲『ラ・フィユ・マル・ガルデ』の曲を用いたテンポよく明るいパ・ド・ドゥ。
第2部は『ア・タイム・トゥ・ダンス/A Time To Dance』(振付:スタントン・ウェルチ、振付指導:ガース・ウェルチA.M)。ヒューストン・バレエの芸術監督を務めるウェルチは『マダム・バタフライ』全幕で知られる世界的振付家のひとり。近年日本でも2004年のニーナ・アナニアシヴィリのグループ公演でシンフォニック・バレエ『グリーン』が、2007年のオーストラリア・バレエ来日公演で『眠れる森の美女』全幕が上演され印象深いが、貞松・浜田バレエ団では、それ以前の2002年に『ア・タイム・トゥ・ダンス』を取り上げている。これは星空の下で若い男女たちがエネルギッシュかつ叙情豊かに踊るもの。1990年オーストラリア・バレエにて初演された、ウェルチにとって本格的な振付デビュー作だ。英国ロイヤル・バレエ・スクールでも取り上げられ、このバレエ団のプリマのひとり瀬島五月は、同バレエスクールに留学中に同作のソロを踊った。バレエ・ベースであるが、ドヴォルザーク曲にのせて音楽感覚やスピード感がとても豊かな、才気に満ちた作品。女性ソロなどは細かなトゥさばきも求められる。ソロを踊った新鋭の川崎麻衣はじめ若手を中心とした出演者が歯切れよく深いダンスを披露して楽しませてくれた。
『ア・タイム・トゥ・ダンス/A Time To Dance』

公式チャンネルより 前回上演の映像
第3部はプティパ美学の粋『ライモンダ』第3幕より。ライモンダ:瀬島五月、ジャン・ド・ブリエンヌ:アンドリュー・エルフィンストン。改定振付を貞松正一郎が手がけるこの作品は、「ラ・プリマヴェラ」シリーズ第1回の際にも上演され、歴代のプリマが踊り継ぐものである。瀬島は、持ち前の華やかさと音楽性に加え、難曲ながらもパのひとつひとつをよりていねいに魅せるのを意識していたと思う。プリエのような基本動作ひとつとっても精緻で美しい。チャルダッシュマズルカには、ベテランに混じって若手を配役。若い踊り手にとって民族舞踊の味わいを表現するのは簡単ではないはずだが、だからこそ挑戦のし甲斐のあるというもの。舞台のクオリティを保ちつつ若手に場を踏ませる、そして、その若いエネルギーを客席にもひしと届けるという、実り多きものとなっていた。
公演の翌々日、バレエ団は中国公演へと旅立った。北京・上海での3回の招待公演。日本の創作バレエ『たんぼ・祭』、バレエの代名詞『白鳥の湖』2・4幕のハイライト、コンテンポラリー・ダンスの鬼才オハッド・ナハリンの『DANCE』などを上演する。それに先立ち埼玉でのバットシェバ舞踊団公演や各地でのワークショップのために来日中のナハリン直々のリハーサルを2日間行ったそうだ。地域で活動するカンパニーのなかでも国際交流の深さが際立っている。昨秋にはイリ・キリアン作品もレパートリー入りするなど話題を振りまいている。とはいえ、このカンパニーの根本にあるのは、地域の、身近な観客にバレエの魅力を伝え、さらに奥深いダンスの世界へと導いていく強い姿勢。「ラ・プリマヴェラ〜春」公演は、若い踊り手の躍進を見守れる場であるとともに、多彩な内容でバレエの初見者から通までを楽しませる機会として得がたいものがある。
(2010年4月11日 明石市立市民会館 アワーズホール)