第36回橘秋子賞決定

財団法人 橘秋子記念財団制定による第36回橘秋子賞およびスワン新人賞受賞者が発表された。

橘秋子賞特別賞:鈴木稔
橘秋子賞優秀賞:齊藤拓
橘秋子賞功労賞:千田雅子
橘秋子賞舞台クリエイティブ賞:堂本教子
スワン新人賞:小野絢子

日本バレエの先駆者のひとりである橘秋子の名を冠した同賞は、わが国におけるバレエ界の顕彰のなかでもっとも長く続く権威あるものとされているが、なるほど歴代の受賞者の顔ぶれをみると、錚々たるものがある。今年は5部門に受賞者が出た。
特別賞の鈴木稔は、スターダンサーズ・バレエ団に振付けた『ドラゴン・クエスト』『シンデレラ』再演の成果が評価されたと思われる。フォーサイス作品のような抽象的なコンテンポラリーでも知られる鈴木だが、再演を繰り返し練り上げた物語バレエ2作は貴重なレパートリーに成長しており、日本のバレエにとっても大切な財産となりつつある。
優秀賞の齊藤拓は、昨年創立60周年を迎えた谷桃子バレエ団の記念シリーズ3公演に主演し、その演技が認められたのだろう。偉丈夫でありながらノーブルな雰囲気があり、洗練された演技もみせる貴重な人材といえる。このところ谷バレエは、舞踊批評家協会賞にてバレエ団が協会賞を得たほか、将来性ある若手舞踊家に贈られる東京新聞主催:中川鋭之助賞を永橋あゆみが獲得しており、これで3冠達成となった。
功労賞の千田雅子は札幌舞踊会を母・千田モトから引継ぎ発展・維持してきた。功労賞受賞者に顕著だが、近年の橘賞では、各地で質の高い活動を行い優れた人材を育成してきたバレエ人に賞が贈られる機会が少なくない。日本のバレエシーンの華やかな部分は首都圏に偏りがちであるが、若い才能をしっかり育て内外に送り出しシーンを支えているという点では、かなりな部分は地域のバレエの底力によるものが大きい。これは、日本児童バレヱ(現:日本ジュニアバレヱ)を創設し、広く全国から集った若い踊り手を育てるとともに、その成果・熱を地域のバレエ界に還元してきた故・橘秋子の先見性による功績も多大なものであることの証左に他ならないといえるだろう。
舞台クリエイティブ賞の堂本教子は金森穣作品や大駱駝艦の舞踏、維新派松田正隆のマレビトの会といった演劇の衣装デザイナーとして活躍している。ダンサーの身体性を見極めて、その魅力を最大限に発揮させる手腕に秀でる。昨年の活動を見ると、新国立劇場制作による平山素子『Life Casting-形取られる生命』の再演がもっとも大きな場での仕事のはず。このところ異分野の気鋭アーティストによる参画がバレエ界でも成果を挙げており(たとえば、上記の鈴木稔『シンデレラ』の斬新な舞台美術は演劇畑で仕事する二村周作によるものであった)、その意味で今回の堂本の選出は、今後、彼女の仕事の拡大を促し舞踊界に実り多きものになるようにと期待される。
スワン新人賞の小野絢子は、いわずと知れた今売り出し中の新国立劇場バレエ団の若きソリスト。昨年は『ローラン・プティコッペリア』スワニルダ、牧阿佐美版『くるみ割り人形』クララ/金平糖の精を踊るなど活躍が目立った。新国立劇場バレエ研修所修了生だが、ジュニア時代から知る人ぞ知る存在であり、研修所入所以前の2004年に『ライモンダ』第三幕においてソリストのヴァリエーションを踊った際には、精確かつラインの美しい大器が出てきたと感じ、媒体評で絶賛した覚えが。早熟の若手ではあるが、今後、さらに大人のプリマとして躍進していくことが期待される存在である。