創作バレエの新しい波

日本のバレエ界は優れたダンサーを無数輩出しつつも世界水準で通用するような傑出した振付家/創作作品はなかなか生み出しえない。要因はさまざまあろうが、在野に優秀な振付家がいても作品発表の場を持ったり、一流ダンサーを集めるのが難しいこと、仮にいい作品ができても再演し練り上げていく機会に乏しいなどが問題だろう。
フリーランス振付家が作品発表する場合、各地の団体の公演や発表会というケースが多い。とても貴重なことであるし、なかにはわが国有数の高水準な上演を行う団体もあるものの注目度という点では低くなってしまうケースもなくはない。首都圏の有力団体がフリーランスや外部の振付家を使う機会はこれまであまりなかったのが実情だろう。新国立劇場はかつて「J-バレエ」という企画を2度催し金森穣や島崎徹ら邦人振付家を取り上げた。でも、動員に大苦戦したためか「エメラルド・プロジェクト」という新作物語バレエ発表の枠へとチェンジしてしまった。新国立ですらリスクが大きいのだろう。
元々公的な助成は無きに等しかった日本のバレエはプライベートなカンパニーの自助努力よって発展してきた。創作を上演するにせよ自団や関係者のものを上演する方向になるのは致し方なかったと思う。外部の振付家にまで目がいかないのはやむをえなかっただろう。また、短期間でプロフェッショナルな、世界のトップに肩を並べる団体を目指すならば、世界的な名匠のレパートリーを導入するというのは当然の理ともいえ、公的な団体であればともかくプライベートな団体ならば、それに対し「邦人作品を上演しない」と批判するのはお門違いである。とはいえ、状況は変わりつつあるようだ。
まず、(社)日本バレエ協会が近年、創作バレエ発表の場である秋の「バレエ・フェスティバル」公演はじめ各公演において若い振付者に発表の機会をあたえているのが注目される。2004年秋の「バレエ・フェスティバル」に下村由理恵、キミホ・ハルバートが登場したあたりから変わってきたように思う。下村、キミホ、石井竜一、井口裕之らがバレエ協会公演にて印象的な作品を発表している。ここから波及して新たな作品発表の場が生まれたりもしており、人材育成の場として一定の成果は挙げていよう。
民間団体でも動きが。今月9日に行われる東京シティ・バレエ団「ラフィネ・バレエコンサート」においてキミホの代表作『VISION OF ENERGY』が上演される。また、来年の3月には、スターダンサーズ・バレエ団が「振付家たちの競演」と題した公演を行い、新潟発Noismで注目される金森穣作品を上演する予定と発表されている。楽しみだ。
シティとスタダンに関しては自団関係中心ではあるが邦人の創作を取り上げてきた歴史がまずある(たとえばスタダンは1980年代にかの勅使川原三郎に作品委嘱している)。そのうえで、前者は安達悦子、後者は小山久美という、近年、団の中心としてのポジションについたニュー・リーダーの力によるものが大きいのだろう。バレエ協会にしても新世代の台頭がプログラムを活性化させている。新国立劇場もこのほどバレエと現代舞踊各部門のコラボレーションをはじめて行う。新しい波が続き、より多くの秀作を生み、さらにそこから世界的にも注目されるような名作が誕生することを期待したい。