チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』初日

演劇とダンスの境界を自在に往還して注目を浴びるチェルフィッチュ。最新作『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』は、HAU劇場(ベルリン)との共同制作によって2009年10月に世界初演され、5月7日から19日までの東京公演@ラフォーレミュージアム原宿を皮切りに、今年国内外10都市のツアーが行われる。「ホットペッパー」「クーラー」「お別れの挨拶」の3つの短編による構成。「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005〜次代を担う振付家の発掘〜」最終選考会にノミネートされ、演劇なのかダンスなのかと物議をかもした『クーラー』を挟んで二つの短編を加えたものだ。
初日を観てきたが、期待に違わぬおもしろさ。反復されるテクスト、得体の知れない身体動作といったものを通して、若い世代の労働環境をシニカルに描かれており、独特の不思議なアクチュアリティがある。厳しい労働環境に「明日はわが身」と若い世代は身につまされるかもしれないが、妙な浮遊感というかシュールな感覚があって後味は悪くない。前衛音楽、フリージャズといった音楽の使い方も大胆で新鮮。強いて気になるといえば、『クーラー』を先に観ている人間からすれば前後の繋がりが「なるほど、そう来るか!」と思え楽しかったが、『クーラー』未見の人の場合、前後とやや造りが異なる印象を受け戸惑うかもしれない。でも、才人・岡田利規のこと、折り込み済みだろう。
1990年代以降の「静かな演劇」的なリアリズムとは違うアクチュアルなテイストの表現の第一人者として岡田は注目されてきた。個人的には岸田國士戯曲賞賞受賞前に手塚夏子とともに渋谷ギャラリー・ルデコで公演を行ったとき以来、大半の作品をフォローしている。今作は、『三月の5日間』『エンジョイ』といった旧作を受け継ぎつつより軽やかに、それでいてより深く、怜悧に、いまという時代を生きる人間の寄る辺なさを見据えていると感じた。今後のさらなる展開を予感させる刺激的な一作だと思う。
チェルフィッチュホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』

制作:precogのチャンネルより
ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』も収録した戯曲集

エンジョイ・アワー・フリータイム

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