ルジマートフ究極の名演『シェへラザード』金の奴隷

孤高の名ダンサー、ファルフ・ルジマートフ。長年にわたってクラシック・ダンサーとしてあらゆるレパートリーをこなし頂点を極めてきたが、表現者としての独自性は、クラシックを越境した近代バレエやモダンにおいてより発揮されていると思う。笠井叡『レクイエム』や、今回開催の「バレエの真髄」で踊った岩田守弘『阿修羅』でみせた精神性高い踊りは、バレエ・ダンサーとして未踏の境地へと足を踏み入れたものである。
なかでも畢生の当たり役がフォーキン振付の近代バレエの名作『シェヘラザード』の金の奴隷役だ。猫のようにしなやかと評された天才ニジンスキーの名演を彷彿とさせる敏捷さと、この人一流のメランコリックリックなたたずまいに秘められた情熱が相俟って圧倒的な芸術的感興をもたらす。マリインスキー・バレエやロシア国立バレエ等の来日公演でたびたび披露しているが、今回の「バレエの精髄」におけるキエフ・バレエの名花、エレーナ・フィリピエワと組んでの舞台でも底力を見せつけた。野性味はありながら、そこはなとない品位は失わないという、しとやかな獣ぶりはこの人ならでは。
ニジンスキーの踊った金の奴隷は見られなくても、ルジマートフのそれを見られたならば悔いはない!その思いを新たにさせられる名演を堪能した一夕であった。


Schéhérazade: Elena Filipeva- Farukh Ruzimatov