ローザスと鬼才振付家ケースマイケルの現在

8月に開幕する「あいちトリエンナーレ」のパフォーミング・アーツ部門で上演予定されているローザスローザス・ダンス・ローザス』のチケットが早くも完売したようだ。10月末の平日3日間の小ホール公演とはいえ、コンテンポラリー・ダンス公演として何百人も動員するのは大変と思われる名古屋において3ヶ月以上前に完売とは恐れ入る。
ローザスといえば、コンテンポラリー・ダンス ファンには説明するまでもない著名カンパニー。振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルが芸術監督を務めるベルギーを代表するダンスカンパニーであり、1983年に結成された。『ローザス・ダンス・ローザス』は、ローザスを結成した4名のダンサーと音楽家ティエリー・ドゥ・メイなどで創作された、カンパニーのデビュー作にあたる。折からのヌーベルダンス・ブームに乗じて処女作からして世界的にブレイクした記念碑的作品だ。1994年の来日公演も観客やダンス関係者に大きな影響をあたえたとされる。伝説の名作であるが、2009年にケースマイケル自身が踊るバージョンとして再振付され、カンパニーのレパートリーに復活した。コンテンポラリー・ダンス史上に残る傑作であり、今回、愛知のみでの上演が売りである。観られなくて残念がる人も少なくないだろう。追加公演等はできないものか。
とはいえ、その直後にローザス製作、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル+ジェローム・ベル+アンサンブル・イクトゥスがコラボレーションした近作『3Abschied(3つの別れ)』が名古屋で日本初演を迎えたあと、埼玉でも上演される。これは、マーラー大地の歌」(シェーンベルク編曲)に基づいて現代音楽アンサンブルのイクトゥスが演奏し、女性独唱がそこに絡むという異色作のようだ。こちらにも期待したい。
現在の世界のコンテンポラリー・ダンス界の現状をみると、世界的名声を得たピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団は振付家の死という重大な局面を迎え、現代ダンスの鬼才、ウィリアム・フォーサイスはカンパニーの規模縮小を余儀なくされ、来日公演も途絶えている。イリ・キリアンもネザーランド・ダンス・シアターの一線から退き、ナチョ・ドゥアトはスペイン国立ダンスカンパニーの芸術監督の地位から降りる(私的にはドゥアトはコンテンポラリー・ダンスではなくバレエ畑と認識しているが…)。そんななか、ケースマイケルとローザスの意欲的で衰えを知らぬ活動が一際光彩を放つ。日本でも1990年代に来日した『ローザス・ダンス・ローザス』や『永劫の愛』がコンテンポラリー・ダンス・ブームに火を付け、2001年に久々に来日上演されたスティーブ・ライヒの卓越した視覚化『ドラミング』で再ブレイクし、近年も『デッシュ』『ツァイトゥング』等で新たな観客を獲得している。コンテンポラリー・ダンス界の寵児・異才から押しも押されぬ巨匠へと鮮やかにシフトチェンジしつつあるケースマイケルに一層注目が集まること大である。


Rosas | ROSAS DANST ROSAS


ローザス・ダンス・ローザス [VHS]

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