里帰り組の活躍

毎年夏になると、海外で活躍する「里帰り組」の活動が楽しみなところ。
ダンサーでいえば、先日行われた文化庁主催の「バレエ・アステラス☆2010」や、今週末に行われる「ローザンヌ・ガラ2010」というガラには、欧米のカンパニーで活動する踊り手が華やかに競演してバレエ・ファンには見逃せない。前者は気鋭の若手中心、後者はローザヌ国際バレエコンクール受賞者中心の実力派が集うもの。他にもさまざまな公演で海外組が客演したり古巣に戻って踊ったりしている。ベルリン国立バレエの中村祥子ボリショイ・バレエソリスト岩田守弘らの活躍は印象に残る。
振付家でいうと、先だって熊川哲也Kバレエカンパニーが「New Pieces」という、日本人の手による新作創作バレエ3作品一挙上演するという意欲的な企画を行ったが、そのなかでカナダのアルバータ・バレエで活動している服部有吉シューベルトの「死と乙女」を用いて『戦慄』と題する作品を発表した。ダンス・クラシックをベースにしたもので、ストーリー性もあって、コンテンポラリー・ダンスというだけで拒否感を示すような客層にも訴求できる懐の深さが光っていた(逆にいえば、先鋭的なものを期待すればやや肩透かしかも)。死にとらわれていく、いたいけな乙女役を演じるSHOKO(中村祥子)がなんともハマり役。バランシンの『放蕩息子』で妖艶極まりないセイレーンを演じた踊り手と同じとは、とても思えない。中村の多面的な輝きに圧倒されてしまう。ダンサーの魅力を引出し、輝かせる創作という点でも服部作品は昨今貴重なものだった。
里帰り組の活躍は、うれしい限りだが、忘れてはならないのは、そういったすぐれた才能がたくさんいながら国内ではプロとして活躍できる土壌があまりに貧困だということ。アーティスティックな活動が同時に仕事としてなかなか成立しないという現状。無論、なにも海外のカンパニーがすべてすばらしい訳でない。上演水準が低かったり、ルーチンワークな活動に陥っているところも無数にあるだろう。その点、日本のカンパニーの相当数はかなり高い上演水準にあるのも事実である。報酬さえ得られればというのではなく、ダンサーには表現者として悔いのない舞踊人生を送ってほしいと願う。ドラスティックな構造改革は難しいだろうが、わが国において、少しでも優れた才能がプロフェッショナルかつ芸術性に富んだ活動を展開できる場が増えていってほしいところだ。

Morihiro Iwata - "Tamashi"

Shoko Nakamura and Wieslaw Dudek / Black Swan