第21回「清里フィールドバレエ」初日『白鳥の湖』


山梨県清里高原の観光施設「萌木の村」(代表:舩木上次)にて行われる「清里フィールドバレエ」は今年で21回目を迎えた。いまやその存在は広く全国に知られ、大手紙等でも毎年報じられるようになった。今年は今村博明・川口ゆり子夫妻の主宰するバレエシャンブルウエストのレパートリーのなかから『天上の詩』『白鳥の湖』『シンデレラ』の3プログラムを日替わりで上演している(8月9日まで)。フィールドバレエ全体初日(7月27日)の『白鳥の湖』を観た。
夜8時、暗くなると「萌木の村」の広場に設置された特設ステージでバレエが始まる。フィールドバレエ版『白鳥の湖』は、1幕は省略し、2幕・3幕・4幕の上演で休憩込み2時間の上演。清里でも何度も上演しておりすっかり手馴れたものだ。バレエシャンブルウエストの大きな魅力であるアンサンブルの統一感の見事さが存分に発揮され、湖畔で踊りたたずむ白鳥たちのスタイルの一体感のすばらしさには息をのむ。舞台の背景は木々や星たち。装置はきわめてシンプルだけれども衣装は劇場上演と同じ本格的なものだ。一昨年度のフィールドバレエ公演の成果で照明家協会賞優秀賞を獲得した後藤武の監修による照明の玄妙さも相俟って幻想的な雰囲気を醸し出している。

元来、バレエ芸術は、宮廷舞踊に端を発し劇場芸術として磨きあげられて発展してきた。しかし、フィールドバレエで上演されるバレエは、いわゆる通常の劇場でのバレエ上演とは趣を異にする。舞踊という表現が孕む、きわめてプリミティブな要素を強く感じさせる。プロセニアムといった枠もなく、豊かな自然のなかで客席もあたかも舞台の一部であるかのような不思議な一体感が感じられる。舞台上で起こるドラマが絵空事に感じられない。虚構の世界でありながら虚構を超えるような、独特なコスモロジカルな世界に惑溺させられる。劇場芸術としてのバレエに劣らない極めて高いクオリティを追求しつつ舞踊という根源的な芸術表現の原点に立ち返った、バレエを超えたバレエと言っても決して大げさではない。何度も観ているが、他では味わえない体験を得られる比類ないものとの意を新たにした。

所見日の話題は、今年1月末に行われた第38回ローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞した佐々木万璃子(川口ゆり子バレエスクール)がオディール役で出演すること。弱冠15歳のジュニアながらベテラン佐藤崇有貴の好サポートに導かれ健闘した(オデットの深沢祥子も好演)。物怖じしないプレゼンス光り、上半身を豊かに使った踊りはダイナミック。全身に神経行き届き背中から腰にかけてのラインが柔軟で美しい。この9月から英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学する。大器であるが、まだ若い。時間はたっぷりある。さらなる成長と大成を期待したい。その前に、来る8月7日、8日に東京・青山劇場にて行われる「ローザンヌ・ガラ2010」(芸術監督:熊川哲也)に出演し、ローザンヌの決選で披露した「ラ・バヤデール」よりヴァリエーション&『Traces』(振付:Cathy Marston)を踊る。楽しみだ。
夢のような興奮を味わえるフィールドバレエであるが、ダンサーだけでなく多くのスタッフ、地元の多くの人々の陰の力が大きいことを忘れてはならない。物心ともに多大な負担の少なくない公演が、21年間も続いてきたことには、ただただ圧倒される。世界的にも類がない。奇跡と言いたいが舩木が開演前の挨拶で語ったように長年の営為による必然でもある。来年は15日間開催に挑む。常に限界に挑戦する今村・川口、舩木を筆頭にしたダンサー・スタッフ、関係者の熱意に対して、バレエを愛するものとして深く感謝しなければならないのであるが、いつも一方的に感動させられ、勇気付けられるばかりだ。「清里フィールドバレエ」が永遠に続くように。そう願わずにはいられない。
写真上2枚はリハーサル所見時の模様。3枚目は本番終演後の撮影OK時ショット。
(C)Morihiko Takahashi