MRB松田敏子リラクゼーションバレエ「バレエスーパーガラ バレエコレクション2010 in OSAKA」


MRB松田敏子リラクゼーションバレエ「バレエスーパーガラ」は1999年以来毎夏、大阪で開催されるバレエ・ガラ公演。関西で活躍する一線級を中心とした踊り手が一堂に会するわが国有数のガラ・コンサートとして定着している。12回目の今回も盛り沢山な内容で楽しめた(7月25日 グランキューブ大阪)。
バレエ団の枠を超え関西の実力者や若手を紹介すること。それは初回から一貫する特色だ。芸術監督を務める漆原宏樹がバッハ曲に振付けた『ムーブメント』では、中堅・若手女性陣が華やかに踊る。松田の公私のパートナー小嶋直也振付『LOOK』は、シューベルト曲を使ったシンフォニック・バレエの趣のなかに、ダンサーたちの個性を活かした妙技も織り交ぜ観るものを楽しませた。重鎮の小嶋、法村圭緒のほか竹中優花、廣岡奈美、吉田千智、恵谷彰、藤井学、中家正博ら気鋭ソリストたちは活きがいい。
パ・ド・ドゥ(以下、P)、グラン・パ・ド・ドゥ(以下、GP)等でみていこう。『くるみ割り人形』よりGPを、完璧といえる金平糖を披露したベテラン渡部美咲(山本禮子バレエ団)と踊った福岡雄大(新国立劇場バレエ団)は、マナー良く端正に踊ってノーブルな魅力を示した。『グラン・パ・クラシック』よりGPを踊った金子扶生・奥村康祐(地主薫バレエ団)は、先月ジャクソン国際バレエコンクールにて、ともに銀賞を獲得して勢いにのる。金子は18歳とは思えぬ堂々とした演技。奥村は好調で踊りの切れ味は最高!逞しさも加わってきた。『ダイアナとアクティオン』よりGPを秋元康臣(NBAバレエ団)と踊った気鋭の若手プリマ法村珠里(法村友井バレエ団)は、秋元ともども技術の誇示に終わらない。互いのやり取り、会話が聴こえてくるかのよう。的場涼香(北山大西バレエ団)は、沖潮隆之(原田高博バレエ・シアター、沖潮バレエアート)に導かれ漆原振付『ブラジレイラス』を大人っぽく雰囲気たっぷりに。クールなテクニシャンという印象を覆す演技だった。
ベテラン・中堅も負けていない。『サタネラ』よりGPをボリショイ・バレエ団ソリスト岩田守弘とともに闊達に踊った福谷葉子(福谷葉子バレエスクール)、漆原が振付けたソロ『北の海に』を劇的に踊った西尾睦生(法村友井バレエ団)の演技は、経験を積んだ人ならでは。田中ルリ(原田高博バレエシアター)は沖潮と『ライモンダ』よりGPを踊って風格十分。石川愉貴(アートバレエ難波津)は淺野眞央、大野嘉子とともに自作『Dance a・La・carte』を踊る。音楽・衣装も含めたこだわりを感じた。極めつけは小嶋の自作ソロ『TIME』。総タイツ姿で客席に背を向けて踊り始められるこの作品は、ダンサー・小嶋の現在(いま)を、ゴットシャルク曲にのせて透徹した美意識のなかに浮かび上がらせる。彼の舞台を彩ってきた、そして、近年見る機会を得た舞台の印象では健在のはずの華麗なるテクニックは封じられた。だが、パの一つひとつや脚先の美しさ・雄弁さはいや増し、内面から溢れる叙情に詩を感じる。膝の故障を抱え後進の指導にあたりつつも内に秘めているに違いない表現者としての情熱を静かに、しかし熱く伝えた。
今回の大きな話題は東京の牧阿佐美バレヱ団からの客演勢。同バレエ団のバレエマスターを務める小嶋の力あってのことだろうが田中祐子、吉岡まな美、青山季可、京當侑一籠、菊地研、塚田渉という中軸勢揃い。田中と塚田による『ジゼル』よりP、吉岡、菊地、塚田による『海賊』第2幕よりパ・ド・トロワを披露して力量をみせたが第三部上演『白鳥の湖』第3幕でも要を占めた。黒鳥オディールに青山、ジークフリード王子に京當、ロットバルトに菊地。端正な演技を持ち味とする京當・青山、キャラクター役にも味をみせる菊地を中核にすることで、古典全幕ものの魅力の一端をしっかり伝える。とはいえ、道化役にロシア仕込みでこの役に定評ある岩田が扮して舞台を盛上げたほか、ナポリを小嶋と田中という大物同士、チャルダッシュを圭緒・珠里の法村兄妹が踊るといった趣向もあるし、花嫁たちには渡部、福谷、竹中、廣岡というプリマ級が扮する「あり得ない」事態に。岩田の妻オリガ・モチャローワの踊るルースカヤもロシア独特の民族舞踊の味を感じさせて印象に残る。東西の踊り手の競演も含めガラらしい遊び心も忘れないのが心憎い。幕が閉じると出演者全員によるフィナーレになだれ込む。ダンサーは客席にまで降りてきてプレゼントを配る。賑やかに終演となった。
演出・企画制作・プロデュースを手がける松田はプロデューサーとして存在感を強めている。諸団体の相互交流によって業界の活性化を図るとともに、多くの観客にバレエの魅力を紹介する場として「バレエスーパーガラ」は貴重。大規模なプロデュース公演を毎年継続することは並大抵の苦労ではできないはずだ。質を落とさず、観客を飽かさないプログラミングを行い、それでいて新たな挑戦も仕掛けてきたからこそ続いているのだろう。来年も8月7日に開催が決定しているとのこと。さらなる展開に期待したい。