あいちトリエンナーレ2010、開幕!

“都市とアートが響き合う、3年に一度の国際芸術祭”として今年スタートしたあいちトリエンナーレ2010。現代美術とパフォーミングアーツを中心とした現代芸術の多様性を示す意欲的なプログラムが並んでいる。8月20日に行われた内覧会およびレセプションには出席できなかったが、会期中何度か足を運べそうなのでいろいろ見て回りたいと思う。今回は、関西への舞台観劇と併せてスケジュールを組むことができたため、いくつかのパフォーミングアーツ作品を中心に顔を出すことができた。
まず、話題は、平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)によるロボット版『森の奥』世界初演だ。1990年代にブームを巻き起こした“静かな演劇”の代表的劇作家・演出家で演劇界を理論と実践の面でリードする平田オリザと、ロボット研究の第一人者として知られる石黒浩がタッグを組んで進めているという「ロボット演劇プロジェクト」の初の劇場公開作品。中央アフリカコンゴに生息する類人猿・ボノボを飼育する研究室における、ロボットと人間たちが織りなす会話劇からは、人間とサル、それにロボットにおける知能や感情の相違や生命の倫理といった問題がユーモラスかつシニカルに浮かび上がる。2台のロボットは、90分近くも動き、喋る。これはなかなか画期的なことのようだ。最近は遠ざかっていたがオリザさんの作品は細かなものまでほとんどすべて追っていた時期もあるだけに懐かしい。オリザ・ワールドを堪能できた。
あいちトリエンナーレ2010パフォミングアーツ作家紹介

今回の名古屋訪問は時間がなく、他では納屋橋会場のインスタレーション群しかチェックできなかったけれども、なかなかおもしろいものも。
振付・ダンスのほか映像・音・照明デザインまで担当する自作のヴィジュアル・パフォーマンスが世界の舞台芸術フェスティバルで好評を得ている梅田宏明が、ここでは、光とサウンドによる体験型インスタレーション『Haptic』を発表した。これは、目を閉じると瞼に映像が映しだされるという仕掛けで、昨年3月横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホールにて行われた梅田の単独公演でプロトタイプが披露されている。そのときは映し出される映像はモノクロであったが、今回はカラー・バージョンが完成し(モノクロ版も同時公開)、音響効果もパワーアップ。2分半ほどの時間の作品であるが、映像と音の交響の刺激的な挑発に時間間隔が麻痺するような不思議な感覚を覚える。梅田は、9月の10、11日にはパフォーミングアーツ部門の劇場公演にも登場する。ラップトップ1台(作品によっては2台らしいが)を携え、世界中を相手にクールに活躍する梅田は新世代のヒーローといえる。頼もしい限りだ。

Adapting for distortion - Hiroaki Umeda

体験型のインスタレーションということでいえば、同会場でレアなものを体験できた。ボリス・シャルマッツによる『héâtre-élévision』(体験型映像インスタレーション)は、一時間に1名、一日七回ほどの上演と限られているもの(予約制)。ネタバレは避けたいので詳しいことはいえないが、本当に観客は一名だけで体験・体感するアート作品だ。コンセプト性の強いものであるが、観客自身が体験することで、はじめて完成するというあたりの仕掛けが心憎く、一本取られたという印象。10月31日までの会期中上演されるので、鑑賞予定者は早めに予約をすることをお薦めしたい(入場料:1,000)。

Boris Charmatz