地域からの発信とさらなる可能性〜「全国合同バレエの夕べ」と「スペシャル ダンス セレクションinひょうご」の意義

バレエ界と現代舞踊界において、それぞれ夏に重要なイベントが行われる。日本バレエ協会の「全国合同バレエの夕べ」と現代舞踊協会の「現代舞踊フェスティバル」である。今年で前者は34回目、後者は31回目。バレエ協会に関しては各支部現代舞踊協会に関しては個人・グループと参加単位は異なるが、ともに全国各地からの参加者が作品を持ち寄るものであり、文化庁芸術団体人材育成支援事業に採り上げられている。文化・芸術にとどまらずあらゆる点で中央集権的、東京一極集中といわれる現況のなかで、地域のバレエ・現代舞踊が広く紹介されることは意義深く歓迎したい。
本年度の「全国合同バレエの夕べ」は、8月24日に文京シビックホール大ホールで行われた。かつては多くの支部が競って参加していたが、今回は昨年に続き本部管轄の東京地区と関東支部をのぞいて3支部からの参加のみとやや寂しい。とはいえ、遠方からの参加は物心ともに大変であると想像できる。この不況の時代にそれをものともせず参加した支部と参加者の意欲には頭が下がるばかりだ。支部名と作品名・振付・改訂者名を記しておきたい。東北支部『パキータ』(改訂振付:丸岡浩)、沖縄支部『パ・ド・カトル』(改訂振付:南條喜久子)、九州南支部『クラシカル・シンフォニー』(振付:西島千博)。この会は、地域のバレエの向上と地域間の連帯を目標に掲げて開催されてきたが、いまでは日本のバレエの多様性を示す企画となっている。近年は、ここで初演された気鋭振付者の創作が各地の団体含めた別の場で再演される機会も増えるなど日本のバレエの質の向上にも貢献しているのは疑いない。来年度は久しぶりに新国立劇場オペラ劇場にて2日間にわたって開催されるという。今から楽しみである。
いっぽう今年の「現代舞踊フェスティバル」は、はじめて東京を離れて兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで行われた(8月21日)。公演タイトルは「スペシャル ダンス セレクションin ひょうご」。現代舞踊協会では、今年から夏のフェスティバルを東京と地方との交互の開催で展開していくらしく、その第1回目に兵庫が選ばれたというわけである。神戸では今年で23回を数える全国洋舞コンクールが行われ、バレエ&モダンの若手ダンサーや振付家の登竜門となっている。同コンクールを主催する兵庫県洋舞家協会は、バレエとモダンの団体によって構成されるが、今回のフェスにも参加した現代舞踊の加藤きよ子や特別出演した貞松・浜田バレエ団らの諸団体が風通しのいい交流を行っており、それが今回の公演を支えるおおきな力となったのは間違いないだろう。地域からの発信という意味で画期的な企画であり、ラインアップもなかなか新鮮で楽しめた。ただ、公演だけ行うのはもったいない気も。予算面等から難しいのは百も承知であるが、地元団体と提携する等してワークショップや講座を行ったり、参加者同士の交流の場等をもっと設けるなどさまざまな可能性もあろう。さらなる先を楽しみに。
バレエ・現代舞踊とも地域から発信される舞台に東京で行われるもの以上の水準のものや企画性の高いものも出てきた。今回の「スペシャル ダンス セレクションinひょうご」に参加した貞松・浜田バレエ団は古典作品や日本の創作バレエの名作を取り上げつつイリ・キリアンやオハッド・ナハリン作品を高水準に上演して注目を集める。今回上演の『羽の鎖』は再々演となったが同バレエ団出身でドイツで活躍する俊英・森優貴振付のコンテンポラリー・バレエの傑作である。*1近年では、新国立劇場でも地域招聘公演としてバレエが採り上げられるようになり、昨年はその第一回目として大阪を拠点とする名門大手・法村友井バレエ団『アンナ・カレーニナ』(文化庁芸術祭大賞受賞作品/舞踊部門・関西)が招聘され好評を博した。現代舞踊でも、東北や北陸、愛知、中国地方等で特に活発で、個人のリサイタルを行って精力的に活動するベテランや中堅も少なくない。文化庁の助成対象に関しても地域重視に傾きつつあるのが本年度の採択結果や新規の事業プランの内容を見れば明白である。各地域からの発信のさらなる活発化とともに、それらを首都圏や他地域とつなぐことがより重要になってこよう。その意味において、日本バレエ協会現代舞踊協会の、各地に支部を持ち多くの会員を要する組織力は強みだ。それを活かして一層充実した取り組みを期待したい。

*1:地元を代表する舞踊団体として出たわけで、基本的には欧州コンテンポラリーの技法を駆使した振付を優秀なバレエダンサーが鍛錬された技量を用いて踊り、表現するバレエ・コンテンポラリーの作品である。狭義なジャンル分けに固執するつもりはないが、モダン=コンテンポラリー?などという現代舞踊=ジャパニーズ・モダンダンスからみたコンテンポラリーの文脈に囲われると、作品受容に関して誤解を招きかねないので、こう記しておく。