木村和夫の実力

発売中の「ダンスマガジン」10月号の対談インタビュー記事(聞き手:三浦雅士)に登場したのが木村和夫(東京バレエ団)。記事は題して“「オネーギン」、奇跡の秘密〜斎藤友佳理と築いたパートナーシップの舞台裏”。今年5月に行われた『オネーギン』でタイトル・ロールを踊ってタチヤーナ役の斎藤友佳理とともに感動的な舞台を生んだのは記憶に新しいが、その舞台のエピソードや木村の踊り手としての軌跡が語られている。


木村といえば、身体が柔軟で音楽性豊か。『タムタム』のソロやベジャール版『火の鳥』タイトル・ロールなどはその特徴を余さず発揮して絶品である。若き日に大抜擢され、昨年、久々に披露したノイマイヤー振付『月に寄せる七つの俳句』の月の演技も透明感と精神性の深さがあって素晴らしいの一言。古典全幕でも確かな実力を示している。『オネーギン』のタイトル・ロールでも、少女タチヤーナを軽くあしらう冷血漢ぶりから、後年、自身の過去の過ちを知って悔恨するまでを鮮烈に演じて圧倒的だった。斎藤とのコンビネーションもよく、難しいリフトもほぼミスなく終えて斎藤を支えた。斎藤の熱演は際立っており、大手紙等の評でも賛辞が相次いだが、木村の好演なくして名舞台が生まれなかったということは、いくら強調してもし過ぎることはないだろう。
「ダンスマガジン」の対談記事では、オネーギンの舞台裏が詳しく語られ、木村の音楽的な演技の魅力に関しての聞き手の指摘も的を射ており、納得のいくもの。木村は、東京バレエ団プリンシパルのなかでも、斎藤や吉岡美佳、高岸直樹らの同世代や後輩で現在特別団員の首藤康之に比べると、突出して目立つ印象はなかったが実力は折り紙付きである。正当な評価があたえられていて、好ましく感じた。(敬省略)
東京バレエ団「月に寄せる七つの俳句」(ジョン・ノイマイヤー振付)