7〜8月のダンス公演、フリンジ系を中心に

7〜8月に観た公演のなかから、小スペースでの公演というかフリンジ系の公演、バレエ雑誌や業界紙等の媒体に評・レビュー等が出ることが少ないと思われるもの、評論関係者をあまり見かけなかった公演等について簡単な感想を記しておこうと思う。なお、すでにblogで触れたものは載せていない。また、die pratzeのダンスフェス「ダンスが見たい!」に関しては、一部しか見られなかったのでここでは触れない。
7月2日(金)19:30ばら色の日々プロジェクト『ばら色の日々』@門仲天井ホール(9/7追加、UP時に漏れてました)
吉福敦子が主宰し、岡田智代、根岸由季、斎藤麻里子と組み、1年をかけて発展させてきたプロジェクト。吉福作品は、水をめぐるイメージからさまざまの記憶が喚起され、生と死の想念のようなものが淡々と、しかし、手ごたえ十分に迫ってくる佳作だった。
7月9日(金)19:00ナチュラル・ダンス・テアトル『東向きに恋をする』@座・高円寺2
中村しんじ川野眞子のカンパニー。ノスタルジーにあふれた独自の演劇的ダンス追求は貴重なので注目しているし支持したい。川野のダンスはやはり別格だ。ただ、日本の現代舞踊史に残るであろう不朽の名作『ありす』や再演重ねる『さーかす』に比べると、まだ初演段階ということもあり、残念ながら完成度では遠く及んでいない。
7月21日(火)19:30ファーミ・ファジール&山下残 『Dewa Mata | Jumpa Lagi』@SNCK
マレーシアで政治・社会問題を題材にパフォーマンスとして提示するファーミ・ファジールと、関西を拠点に活動するダンサー/振付家山下残が共演。観客も巻き込んでのダラダラとまったりとした会話の応酬(英語)が楽しく魅入ってしまう。そこから両者のバックボーンや「いま」の時代の空気がうかびあがる。軽いタッチだが戦略的。
7月29日(木)20:00ダンスマルシェ『花ゲリラ』@Super Deluxe
現代舞踊の実力者・本間祥公のもとから独立した池上直子のユニット旗揚げ公演。ヴァイオリニストの廣川抄子のオリジナル曲・生演奏を得て、茨城のり子の詩をモチーフに40分ほどのソロを踊った。自身を見つめなおす誠実な試みに好印象を抱いた。
「haco」

7月31日(土)15:00YDCex/MASDANZA@横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホール
スペインからの来日ものがメインだが、ここでは併演の宝栄美希の自作ソロ『Mole of wrist』に触れる。宝栄は若くて才気ある踊り手。ロンドン留学から一時帰国しての公演。同作は昨年2月に名古屋で初演しているが振付は大幅に変え、新たに映像も使用した。まだ発展途上だが新たに挑戦しつつ練り上げてくるあたりやはり才能を感じる。
Miki Hoei "Line" Part 1

8月2日(月)19:30高襟(ハイカラ)『The Michest』@Dance Studio Uno
深見章代の主宰するカンパニーのスタジオ公演。故マイケル・ジャクソンへのオマージュでありながら、単なる完全コピーやラブレターに終わらない。女性3人が歌い踊るコンサート形式という構成でダンスの燃焼度も高い。深見・高襟流のMJ論としてもユニークでシニカルな視点も感じられた。コアな観客が付いているのも何より。
高襟狂騒曲 ハイカラプソディ CM

8月8日(日)14:00パフォーマンスキッズ・トーキョー ・東野祥子『UNICOSMO WONDERLAND(ユニコスモ ワンダーランド)』@吉祥寺シアター
東野祥子が子どもたちと作り上げたちょっぴりダークだけれどもチャーミングな不思議ワールド。東野のほかケンジル・ビエンも出演し彼らのパフォーマンスも見ごたえあった。
8月12日(木)19:30CDA Dance Performance「Dance me crazy,Dance you crazy」@ラゾーナ川崎プラザソル
沖縄でバレエ普及に意欲を燃やすカンパニーの公演。東京シティ・バレエ団プリンシパル小林洋壱作品2作を上演した。小林は主役経験が豊富なだけにデュオ等では見せ場を作るが、群舞はやや単調で変化に乏しくまだまだ研鑽を要すると感じた。
8月14日(土)15:00「名づけることのできない仕事#1」@RAFT
小川水素・池田拓実・川崎歩による実験的なパフォーマンス。いずれもコンセプチャルなものでやりたいことは「分かる」。面白いかは別にして。この種の創作に対してシンパシーあっても「いま観るべきもの」「最先端」みたく押し出して売ると業界内で反撥を買うし観客を遠ざける。地味でも雑音なく研鑽できる場を提供する姿勢には共感。
8月20日(金)17:00群々(ムレ)『静かな日』@港区芝公園近くの某物件
元お菓子工場か何かだったという廃墟でのパフォーマンス。ロケーションの魅力に勝るほどパフォーマンスが楽しいとまではいかなかった気もするが、暗闇のなかで夢幻的といえる不可思議な世界を息づかせることには成功していた。

8月25日(水)19:30ケイタケイ'sムービングアース・オリエントスフィア. LIGHT、Part 27『消える米畑』@スタジオムービングアース
ポストモダンダンスの巨匠の代表作が全編上演としては日本初披露された。ケイはじめ世代を超えた踊り手たちが耕す豊穣なる舞踊畑。故・前田哲彦の遺した布の美術が活きている。このところ精力的に展開されているケイの舞台をみると、美や普遍的な感動を生むのは舞踊のスタイルの新旧ではないと痛感させられる。
8月27日(金)15:00鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコライブ desnudo vol.7@ムジカーザ
巨匠クラスより下の世代で一番勢いのあるフラメンコ集団。通常フラメンコで踊るのには使わない曲に挑むなど意欲が目につく。まさにコンテンポラリーな試み。
ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ Mayumi Kagita & Ali Thabet

8月27日(金)19:30木村由『狂女の庭』@テルプシコール
「身体のあらわれ」的なことだけで満足するのではなく、美術家とのコラボレーション含めて構築的な舞台づくりがいい。破天荒な動きもあって悪くないが、もう少し動きに対しても美術等との関連でも緻密さが増せば面白くなるのでは。
8月31日(火)19:00熊谷和徳×東京フィルハーモニー交響楽団「REVOLUTION」@東京オペラシティコンサートホール
画期的なイベントなのに舞踊評論家がだれも来ていない…。久々にちゃんと見た熊谷であるが、バッハやラヴェルをはじめとしたクラシックにのせてエネルギッシュに踊り切る。圧巻が最後のショスタコービッチ交響曲第5番」の第4楽章。勇壮な曲に雄渾のステップで凄絶にぶつかった。そしてアンコールのバッヘルベル「カノン」の限りなくいとおしい曲調に寄り添う踊りの甘美さといったら!ひたすら惑溺させられた。
TAP 熊谷和徳 New DVD「FRAGMENTS」