来春のバレエ界の注目は2つの『ドン・キホーテ』

このところ活きのいい若手バレエ・ダンサーがどんどん出てきているし、充実期に入った主役級も少なくない。注目の踊り手が揃って研を競う舞台が来春続けて行われる。演目はともに『ドン・キホーテ』。日本バレエ協会公演と牧阿佐美バレヱ団公演だ。
日本バレエ協会公演は「2011都民芸術フェスティバル参加公演」として1月28日(金)、29日(土)、30日(日)の3回公演で会場は東京文化会館。これまでバレエ協会の『ドン・キ』では、このバレエを全幕日本初演した谷桃子バレエ団版と基本的に同じヴァージョンが上演されていたが、今回は元ベラルーシ国立ミンスクボリショイ劇場芸術監督ワレンチン・エリザリエフ版を新制作するというのが話題である。
主演キャストが凄い。酒井はな&藤野暢央、法村珠里&奥村康祐、西田佑子&法村圭緒の3組。酒井の劇場中を鷲掴みにするかのような生命力あふれたキトリに香港バレエ、オーストラリア・バレエで活躍した実力者・藤野のバジルが組む初日は、まあ、外れなしであろう。法村珠里は今年6月に大阪でキトリを踊っているが若々しいなかに匂い立つような色香がある。人を酔わせる華がある。奥村は若手ノーブル・ダンサーの代表格のひとりで、このところ急激に伸びてきた。西田は、いまもっとも脂の乗ってきた中堅プリマ。テクニックもしっかりしているが清楚で美しい。関西出身で、現在東京中心にフリーで活動しているが、大役が舞い込むようになってきた。ノーブル・ダンサーとしてゆるぎない地位を誇る法村圭緒とは大阪時代によく組んでいただけにパートナーシップも問題ないだろう。西田・法村圭緒の日のエスパーダを小嶋直也が踊るというサプライズも。この版では、エスパーダの出番が多いようだ。小嶋ファンは見逃せないところ。
いっぽうの牧阿佐美バレヱ団公演は3月5日(土)、6日(日)に、ゆうぽうとホールで行われる。主役を、青山季可&清瀧千晴、久保茉莉恵&菊地研が務める。このところ牧バレエは若手の大抜擢が目立つ。今秋の『ラ・シルフィード』『セレナーデ』の舞台でも顕著で、そのことによって舞台にも客席にも活力がみなぎっていた。12月に上演された『くるみ割り人形』でも若手の起用が目立ったが『ドン・キ』も新鮮なキャスティング。
青山は昨年に続いてのキトリ役だがテクニックもしっかりしていて華のあるだけに適役。バジルには若い清瀧が抜擢されたが、折り目正しく美しい踊りに加え、ボリショイ・バレエへの留学を経て力強さも増してきた感がある。久保は入団一年目。初の舞台の今秋の公演で『セレナーデ』ソリストに配役された逸材だ。今春の全国舞踊コンクール第1部ではオーロラのヴァリエーションを踊って第1位を獲得。長身を生かした見栄えのよさと的確な踊りで強い印象を残した。菊地はプロ・デビューが早く、若くして脚光を浴びたが、その後主役はもちろんキャラクター役も踊れる若くして貴重な踊り手となっている。魅せ方がうまく、抜群にカッコいいバジルを踊ってくれるのではないか。
プレビューめいたが、期待の新鋭や充実期を迎えた人たちが揃って『ドン・キ』を踊って檜舞台に立つ、日本バレエ新時代を占う機会になりそうなだけに、触れておきたく思った。どちらの公演でも主役級だけでなくソリストや群舞のなかに明日のスターがいるかもしれない。その意味でも注目したいところ。来春が待ち遠しい。
(配役は記事掲載現在)


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