コンテンポラリー・ダンスのチャリティ公演「作業灯、ラジカセ、あるいは無音」がもたらしてくれた素晴らしい感動!

東日本大震災の被災者の方々・被災地に対し何かできることはないか?舞踊界でも公演を敢行する団体が義援金を募るなど支援の輪が広がっている。そんななか、コンテンポラリー・ダンス界においてすばらしいチャリティイベントが行われた。
東京・北品川本通り商店会のフリースペース「楽間」で4月2日に行われたチャリティー公演である。発起人は品川在住でコンテンポラリー・ダンスの音響を幅広く引き受ける牛川紀政。牛川は昨秋できた「楽間」で何かダンスのイベントができないかと考えていたが、このたびの大震災に際し、チャリティ公演、そしてアーティストたちが自由に表現できる場を提供しようと一肌脱いだようだ。公演名は「作業灯、ラジカセ、あるいは無音」。ラジカセと簡素な照明機材のみを使用するエコな公演を心がけた。
集まったアーティストが凄い。牛川に加え、1990年代以降のコンテンポラリー・ダンス シーンを牽引した伊藤キム、舞台監督として活躍する原口佳子、STスポットの大平勝弘らがタッグを組んだ結果、コンテンポラリー・ダンス界の一線で活躍する面々が揃った。以下、アーティストと作品名。初初期型「コレオグラフィー」、井上大輔/辻田暁「未定」、栩秋大洋 、ボクデス「パンダンス」、高襟〜HAIKARA〜「Laughing Place」、神村恵「未定」、田畑真希「ヒキコモリ」、酒井幸菜「Far/near(遠く/近くに)」、鈴木ユキオ「無題」、おのでらん/ももこん「合席」、東野祥子「全廃...」、伊藤キム「生きたまま死んでいるヒトは死んだまま生きているのか?」(ソロパート)。当日パンフ等配られなかったので牛川のtwitterより引用した。
初初期型(主宰:カワムラアツノリ)は開場前から商店街でのパフォーマンスを行い、スペース内での上演ではその日出演する各アーティストの紹介を兼ねたパロディを披露して笑いを誘った。井上・辻田は海とも空とも取れるような青の彩色を施した絵を書きつつ踊る。地元在住?の栩秋の軽快なソロ、ボクデス(小浜正寛)はパンダの家族に扮してのお馬鹿で人を喰ったようなパフォーマンスをみせる。高襟(主宰:深見章代)は、客席をドン引かせること承知でエロスと猥雑さをフルスロットルに放出して暴れまくって喝采を浴びた。神村は携帯電話と水のペットボトルを対話させるという趣向やスペースを何度も走り回るなどコンセプチャルなパフォーマンスを提示。田畑は淡々とした動きの連鎖のなかに命の鼓動を伝えるソロを披露した。酒井は、ギター、ヴァイオリン/ヴィオラの奏者兼男性ヴォーカルを従えて繊細に舞った。実力者・鈴木はストイックななかに磁力あるダンスをみせる。おのでらん/ももこんはコミカルでシュールなマイム・ダンス劇において笑いを誘った。東野は原発全廃を謳うメッセージを掲げたらしいソロを踊る。伊藤は出世作のソロパートを静謐な祈りの中に踊って感動を呼んだ。
入場料は2,000円(中学生以下無料)。会場費を除いた全額を日本赤十字社および企業メセナ協議会を通して義援金として送られるという。会場費も商店街を通して義援金として送るとのこと。席数は70席前後(立ち見20席を含む)を用意して入退場は自由というものであったが、のべ114名の来場があったということなので(終演時の発表・正確な数字は主催者が後日発表するだろう)、約22万円もの支援が集まったということになる。終演後のあいさつで、牛川は「ダンスって素晴らしい」「身体って素晴らしい」と叫んだ。会場の皆の気持ちを代弁してくれた。伊藤はまず「ありがとう」と。そして「自分は、牛川、原口、大平らの企画に乗った、そして他のアーティストたちもそれに乗り、この日集まった観客も乗ってくれた」と感謝の意を語る真摯な言葉に胸打たれた。
今回の大震災以後、首都圏では劇場等の都合や計画停電等の影響によるやむを得ないケース含め公演の中止が相次いだ。こんなときにダンスなんてやっていていいのか?アーティストの誰しもが自問したことだろう。でも、アーティストにとっては経済活動として、また、自らの実存を世に問う手段として表現することは欠かせないだろう。自らが表現することで少しでも被災者のかたのためになれば、そして、観客を楽しませ刺激的な体験を提供することができれば、というのは、舞踊に限らずすべてのアーティストの心の底からの願いだと思う。カーテンコールでは、出演者たちが少々遠慮がちに、しかし、どこか誇らしげな表情を浮かべているのが印象的だった。人と人は「つながっている」「勇気を伝えられる」。へえ、いつから人はそうなったの?なんて揶揄する向きもあるが、甘っちょろい理想論であっても、そういうことは起こりうると信じたい――そう思わせられるくらいに深く深く感銘と勇気をあたえてくれた公演だった。ダンスが好きでよかった!生きていてよかった!そう実感させてくれる素晴らしいものだった。