ダンスがみたい!新人シリーズ9 受賞者公演雑感

今年1月、日暮里のd-倉庫で行われたダンスコンペ「ダンスがみたい!新人シリーズ9」(主催:「ダンスがみたい!」実行委員会 共催:die pratze 助成:文化庁芸術団体人材育成支援事業 EU・ジャパンフェスト日本委員会)。「新人シリーズ」は、若手ダンサー・振付家の登竜門のひとつとして注目され、これまでに玉内集子、酒井幸菜、根岸由季、柴田恵美といった気鋭ダンサーを受賞者に選んできた。
今年新春のvol.9では、どういうわけか依頼を受けたので、志賀信夫(舞踊批評家・編集者・ライター)、花上直人(舞踊家)、ヒグマ春夫(映像作家・美術家)、武藤容子(舞踊家)というお歴々とともに新人賞審査員を務めさせていただいた。
全32組のなかから新人賞2組と観客の投票によるオーディエンス賞1組が選ばれた。

新人賞
木村愛子「暖かい水を抱くII’」
ポコペン舞子(ぶす)「もう少し待っててください」
オーディエンス賞
富野幸緒「TIARA THE BEAUTY〜眠らない、美女〜」

私がどういう基準で審査に臨んだか誰を推したかは選評にすべて記してある。
ダンスがみたい!新人シリーズ9 審査員による講評
http://www.geocities.jp/azabubu/s9c
受賞者にはこの夏の「ダンスがみたい!13」で単独公演の機会をあたえられた。
今回の「新人シリーズ」の審査は困難を極め、受賞者を決定するのに時間がかかった。最終日の終演後の審査会では結論がでず、翌日に持ち越された。が、木村愛子とポコペン舞子、それぞれソロ、群舞(6人)と形態も異なるし個性も大きく違う2組を選んだことは間違いではなかったと思う。オーディエンス賞の富野含め3組の受賞者公演は神楽坂のdie pratzeで行われたが、小スペースとはいえ各組3回公演が大入りだったらしく活況を呈していた。舞台内容も充実していた。以下、雑感。
ポコペン舞子『もう少し待っててください』(7月19日所見)。小山綾子、原田香織日本女子体育大学出身の女性6人によるグループだが、今回は男性1人をゲストに招いた。いろいろダンサーの出入りがあり反復が繰り返されるというミニマルな展開が続き、最後に全員で熱量たっぷりに踊りつつ個の存在感も屹立させる。よく計算されているコンセプチャルな印象を受けるが、それでいて最後にはフィジカルな興奮もあたえてくれる。「新人シリーズ」の審査の際、最終的には受賞に同意したが、手堅いというか構成や動きに既視感あるあたりが不満ではあった。が、1時間という時間を見せきるにはアイデアや動きの面白さだけでは難しいのも事実だ。知的な構成力が光る作品だった。
木村愛子『温かい水を抱く3』(8月4日 所見)。「新人シリーズ」で木村を観た際に、折り目正しい資質を持ちながらもそこから抜け出し、はみ出していくようなおもしろい可能性を感じて注目した。彼女は桜美林大学木佐貫邦子に師事している。木佐貫門下で、ソロ中心に頑張ろうとしているのは、上村なおか以来であろう。「新人シリーズ」のあとに行われた「横浜ダンスコレクションEX」の新人振付家部門にもノミネートされている。今回は観客に二方から囲まれる形の舞台で逃げることなく1時間弱の時間、自らと観客と真摯に向き合った。力強く跳躍したかと思うとガッと倒れるなど、折り目正しい確かな技術の裏打ちある動きと自らを曝け出し痛めつけるような動きが混在する。全身で感情を発散させようとする。未熟な点も多いが、折り目正しさ=自分の殻から逸脱していこうという挑戦への覚悟と迷いが相まって観るものに強く訴えるものがあった。
富野幸緒は欧州のコンテンポラリー・ダンスの前線で10年以上踊ったキャリアを持つ超実力者である。「新人」と呼ぶにはふさわしくないかもしれないが、「新人シリーズ」での受賞作『TIARA THE BEAUTY〜眠らない、美女〜』は、女性3人が演歌や歌謡曲を唄い出したり、ピストルをぶっぱなしたりといった破天荒でノンシャランな展開から後半のクールでカッコいいダンスになだれ込む展開が魅力的だった。キャリアも既視感のある表現もかなぐり捨て、確かなものから遠く離れて、やりたいことを徹底して突き詰めつつ観客に訴求する姿勢が頼もしい。受賞者公演『ストロング・ストイック・ストロベリーショー』(7月28日所見)は3作品で構成されていた。 最初の『befreiung 2011』は富野のソロで緻密に編集された映像とリンクした展開がスリリング。続く『ユキオとチアキ〜さよならムーンライト〜』は富野と野口千明とのデュオだがコミカルでどこかせつない。最後の『QUARTEY in Presto Agitato』は丹羽洋子、田中ノエル、中原百合香、小川圭子による緻密でハードなカルテットダンス。3つ通して観ると、フルイブニングの公演を観たという充足感を味わうことができた。ダンサー/スタッフとも富野の創作に心を寄せる人たちが集い「チームトミノ」体制が整っているようで、さらなる展開を期待させた。

木村愛子:ヒグマ春夫の映像パラダイムシフト Vol.30「波動その2」

ポコペン舞子 『もう少し待っててください』 ダイジェスト

富野幸緒 出演 踊りに行くぜ!!vol.9広島公演