洋舞2011 vol.2

現代舞踊やコンテンポラリー・ダンスと呼ばれる分野のダンス中心に触れる。
大ベテランでは芙二三枝子が米寿記念「芙二三枝子現代舞踊公演」を行って健在ぶりをみせた。山田恵子・和田寿子・藤里照子・森嘉子・山田奈々子による五人の会『五重奏』というものもあった。vol.1で触れたが、藤井公珈琲の会・藤井公追善公演「われは草なり」も忘れ難い。現代舞踊協会文化庁の委託を受けて行った「全国新進芸術家による現代舞踊フェスティバルin東京」では、西田堯『パラダイス・ナウ(1986年)が25年ぶりに再演され話題になった。多くの弟子筋が活躍し「江口・宮アーカイヴ」(vol.1にて触れた)開催の主導的役割を果たすなど現代舞踊界をリードする金井芙三枝『樹魂』も「時代を創る 現代舞踊公演」にて久々に再演された。今秋惜しくも亡くなったモダンダンスの巨星アキコ・カンダは死の2週間前まで舞台に立ち、「花を咲かせるために〜バルバラを踊る〜」は忘じ難い会となった。

近年活発に活動するケイ・タケイs ムービングアース・オリエントスフィア『Chanting Hill』はグループワークとして前作より格段に深化し、生の根源を深く鋭く問うた。花輪洋治は神楽坂の小劇場でひとりリア王を舞い健在を示した。加藤みや子ダンススペースブラジル凱旋公演『Sand Topos』&『笑う土』『日記』の2プログラムを上演して存在感十分。独自の創作路線を歩む森谷紀久子モダンダンス公演『神話の森〜狐のふうりん』もあった。笠井叡『Utrobne〜虚舟〜うつろぶね』の、いよいよ先鋭化しつつ手応えのあるパフォーマンスにも圧倒された。上田遙劇的舞踊集団kyu『灰かぶり姫〜僕らのシンデレラ物語〜』『Sotova』でエンターテインメントとの親和をみせた。本間祥公ダンスエテルノシリーズ企画第8弾 名嶋聖子×池上英樹×梶谷拓郎では本間と子女で振付に才をみせ現在ドイツに文化庁在外研修員として留学する山口華子が振付を行った。田中いづみダンス公演『そして、今』は、いまという時代と誠実に向き合った人間賛歌に思われた。

80年代後半のコンテンポラリー・ダンス黎明期から活動する大御所の活動もあった。現代ダンスの巨匠・勅使川原三郎ゴールデンウィークにカンパニーメンバーと『サブロ・フラグメンツ』を発表しメディアや批評家から極めて高い評価を受けた。ただ、終盤にあった津波を思わせるシーンなど、私にはまだ少しばかり生硬な表現にも思われたし、勅使川原&佐東利穂子と他のメンバーの技量差がやや目に付いた。コンテンポラリー・ダンス界のゴッドマザーと呼ばれる 黒沢美香は自身出演しなかったが大作となる黒沢美香&ダンサーズ公演・ミニマルダンス計画2『虫道』を発表。
中堅がいい仕事をした。コンテンポラリーダンサー/振付家として第一線で活躍する平山素子が単独公演を行った。『After the lunar eclipse / 月食のあと』リ・クリエイションは2009年の愛知初演ソロの完成度を高め照明・音響・衣装などの諸要素との緊密なコラボレーションに発展させていた。内田香Roussewaltz『真実』は彼女たちが現代日本で最高に美しくクール、そして繊細かつ大胆に踊れる練度高い集団であることを証明したのではないか。二見一幸ダンスカンパニーカレイドスコープ・15周年記念公演も忘れがたい。二見は動きのヴァリエーションの多さと組み合わせにセンスをみせるが、近作では繊細な情緒も感じさせるものも発表し作家として進化を遂げている。今年は目立った活動がなかったが能美健志らを含めたこの世代が日本の現代ダンスの厚みを形成していることはもっと強調されてもいいかと思う。
昨年度の舞台成果により今春、芸術選奨文部科学大臣賞と江口隆哉賞を得た中村恩恵はvol.1で触れた首藤康之との協同作業『Shakespeare THE SONNETS』等に加え、初の自主公演としてダンスサンガ・カマラード公演『Songs of Innocence and of Experience(無心と体得のうた)』を行いフルイブニング作品を発表した。
彼らと同世代の実力者がすぐれた作品を発表して新境地を開拓した。岩淵多喜子は横浜・象の鼻テラスで新境地となるDance Theatre LUDENS『1 hour before Sunset』を発表。パーカッショニスト加藤訓子との共演も話題に。これまでの折り目正しく型にはまった岩淵作品とは違って開放感があった。個人的には今年もっとも予期せぬうれしい収穫。岡登志子アンサンブル・ゾネ『Still moving2』ドイツ表現主義の影響も受けつつ独自のメソッドを探求してきた岡/ゾネの集成にして新展開を予感させる傑出した舞台だった。中村恩恵(ダンス)、高瀬アキ(音楽)とのコラボレーションがストイックに傾きがちだった岡/ゾネの世界に広がり・奥行きをもたらしている。

コンテンポラリー界の人気者も実力を発揮。イデビアン・クルー率いる井手茂太新国立劇場『アレルギー』を発表したほか、秋に快作『出合頭』を発表し脂が乗りきっている。コンドルズの近藤良平は久々のソロ『11DANDY』を披露して話題に。近藤は近藤良平と障害者によるダンス公演『適当に やっていこうと 思ったの』もあったが、これがなんともやりたい放題のブッ飛んだ舞台で驚かされた。

2000年代のコンテンポラリー・ダンスを担ってきた存在が現在も一線で活躍している。矢内原美邦ニブロール『THIS IS WEATHER NEWS』は昨年秋「あいちトリエンナーレ2010」で初演されたものだが(初演も所見)、震災後の世界を予知していたかのような重くずっしりとした内容にあらためて震撼させられた。黒田育世(BATIK)の『おたる鳥をよぶ準備』は試演会のような形式での上演だったが、黒田の踊りたい・表現したいという狂おしいまでの内的衝動が反映され、痛々しくも切実で胸を打つものがあった。震災を挟んで『私たちは眠らない』『FACES BLANK』というアングラチックで刺激的な作品を発表した東野祥子(BABY-Q)も活発な活動を展開した。
近年東京以外での活動が中心の白井剛はフェスティバル/トーキョーにて静物画—still life』を発表。ストイックな舞台創りの極点をみせた。舞踏から出発し常に身体で試行し内省的な創作を行っている鈴木ユキオは映像やアニメーションとの協同作業による金魚『HEAR』のほか、愛知芸術文化センター主催による音楽とのコラボレーション公演にて『プロメテウスの光』を発表して新展開を予感させる。遠田誠/まことクラヴはサイトスペシフィックな作品制作を続けるが、江戸東京博物館で発表した新作『東京立体図鑑』でも独自路線を歩む。森山開次×岡田利規『家電のように判りあえない』という演劇界・舞踊界のエッジーな才能の意表をつくコラボレーションも。

師弟関係やマーケットやプロデューサーの影響とは距離を起きつつ自らの力で自主公演の場を定期的に持ち、ぶれない活動をするアーティストも忘れてはならない。池上直子ダンスマルシェ『羽音(heart)〜光の幸福は・・影〜』深見章代高襟『悦楽晩餐舞踏会』などがそれにあたる。「女性であること」を徹底して追求する深見。異分野との協同作業を積極的に行う池上。人生は一回きりなのだから、やりたいことを自由に追求できるのは、何にも増して得難いことであろう(誰にでもできることではないが)。そのうえで、観客とも向き合った創作を展開しているのは、すばらしいことだ。
新鋭では、空間と身体の関係を常に問うボヴェ太郎『Lingering Imagery of Reflection —能《井筒》—』『Resonance of Twilight』などで卓越した踊りをみせつつ独自の美的空間を創造。関西中心の活動のため批評家や制作者で彼の動向をフォローしている人が少ないのは気にかかる。ストリートダンス出身で独自のムーブメントを追求し選曲や作曲にもセンスを示すKENTARO!!東京ELECTROCK STAIRS 『届けて、かいぶつくん』を発表した。ポップで楽しく切なく好感のもてる作風。好漢で、支持者を増やし各種助成金もふんだんに獲得し波に乗っている。コンテンポラリー・バレエ寄りともいえるが、児玉北斗小尻健太山田勇の作品を発表した「project POINT BLANK 2011」も関係者やファンの熱い注目を浴びた。現代舞踊界若手舞踊家トップ級の米沢麻佑子が振付者として飛躍したのも特筆される。神奈川県芸術舞踊協会「モダン&バレエ」で発表した『呼吸と鼓動』は15分ほどの作品であるが非常な力作だ。多彩かつ緻密な振付術によるコンテンポラリーな質感の動きをモダンの力ある踊り手23名が技量高く踊りこなして圧巻の出来だった。
大学ダンス出身者の活躍が顕著だ。なかでもトヨタコレオグラフィーアワード2010 受賞者公演・プロジェクト大山『キャッチ マイ ビーム』を振付けた古家優里は注目される。スキルはあるし思慮深そう。演劇の振付の仕事が入るなど陽の当たる道を歩もうとしている。だが、ユニット単位ではどう展開していくのだろうか。「大学ダンスの限界」なんて言われないよう心して研鑽に励むことを求めたい。元プロジェクト大山で、横浜ダンスコレクションで賞を得て渡仏した長内裕美の新作『Namida』はフランスで創られたもののリ・クリエイション。抑制された動きの創出と、デュオという関係性を突き詰めた知性と構成に惹かれた。桜美林大学木佐貫邦子に師事し現在はさまざまなコンペや企画に参加している木村愛は映像作家・美術家のヒグマ春夫とのユニットInfinie vol.1『氷中の星』で映像とダンスの新鮮なコラボレーションをみせた。
アートとエンターテインメントという壁を超える試みとして諸ジャンルの一線ダンサーたちが競演した『GQ Gentleman Quality 紳士の品格〜Chocolat ヘンゼルとグレーテルより〜』も今年を代表する舞台として挙げておきたい。専門筋の反応はともかく観客の異様なまでの熱気というか観劇中の集中力の高さは無視できないと思う。東京サンシャイン劇場での6公演がソールドアウト、大阪公演も盛況だった。いっぽう同公演を主催したCSB Internationalが秋に行った特別記念DANCE公演「Special Evening」は、新上裕也アレッシオ・シルヴェストリン(今年大活躍!)による禁欲的で極めて芸術性の高い作品のダブル・ビルで『GQ』とは180度異なる内容。その揺れ幅を受け入れ楽しんでいる観客層が出てきたのは大きく歓迎したい。
マイム系と目されるアーティストも活躍した。一世を風靡した「水と油」出身の小野寺修二は新展開のデラシネラβ『ロミオとジュリエットを廃校の教室を活かした空間でロングラン上演。シンプルな空間での上演ながら才気と機知に富んだ作舞・演出で大人から子どもまで楽しめる秀作を作り上げた。CAVA(さば)『BARBER』はマイム・演劇・ダンスといった枠にとらわれず新たな表現を模索しつつ大人の楽しめる上質のエンターテインメント。今回はフランスの巨匠パトリス・ペリエラスが作曲し彼を含む楽団が生演奏した音楽も素敵で贅沢な時間を過ごすことができた。
以下は管見のなかからとお断りしておく。
舞踏では山海塾日本初演『二つの流れ−から・み KARA・MI』を発表。主宰の天児牛大は今秋、紫綬褒章を受けた。踏行四十周年記念独舞リサイタル・竹内靖彦『舞踏よりの召喚』もあった。若手では天狼星堂公演などで活躍するほかソロをいくつか発表した大倉摩矢子が印象的。
フラメンコでは、ARTE Y SOLERA率いる鍵田真由美・佐藤浩が活躍した。自主公演で新機軸となるフラメンコレビュー『愛こそすべて』を発表。新国立劇場近松DANCE弐題 Aプロでは女殺油地獄を放ち、近松の世界をアヴァンギャルドに描いて刺激的だった。名門・小松原庸子スペイン舞踊団の名花として名を馳せた石井智子石井智子スペイン舞踊団『ラ・ペテーラ〜運命の女の真実〜』で、テアトロ・フラメンコの新たな可能性を追求。2月にスペインのフェスティバル・デ・ヘレスに招聘された小島章司フラメンコ舞踊団は11月末に大震災追悼チャリティガラ「レクイエム」を行い、12月にはへレス招聘の『ラ・セレスティーナ〜3人のパブロ』を上演している。

Mika Kurosawa & Dancers 2011「虫道」Mushi Michi -rehearsal-

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