わが国の舞踊団体・アーティストの海外公演状況2012‐2013

わが国ではバレエやコンテンポラリー・ダンス、舞踏など舞踊文化が盛んであるが、海外への輸出という点では遅れている面は否めない。とはいえ、さまざまな舞踊団体による海外公演が相次ぐ。文化庁の国際交流支援事業や国際交流基金等の助成を受けて公演が中心となるが、なかには海外のダンス・演劇フェスティバルから直接招聘を受けたり、海外を中心に活動しているアーティストも少なくない。ここ最近の日本の団体・アーティストの海外公演の模様について目につく範囲で簡単にまとめておく。
4月上旬、文化庁による平成24年度国際交流支援事業の採択結果が発表された。これを受けての海外ツアーがめじろ押しである。
なかでも世界的名声際立つチャイコフスキー記念東京バレエ団が第25次海外公演としてパリ・オペラ座の招待を受けガルニエ宮ベジャール振付『ザ・カブキ』を6回上演するのが話題だ(5/18-22)。由良之助役を踊り収めとする高岸直樹と上野水香のペアや柄本弾&二階堂由依という新進気鋭コンビら日替わりキャストで上演。入場券は完売の模様。こちらの公演に関しては各所で既報であるし、公演の模様は間もなく各メディアで大きく報じられるであろうから、これ以上詳しく触れないが成功を願いたい。
バレエでは、日本・モンゴル国交樹立40周年記念東京小牧バレエ団公演も注目される。6/7-8に首都ウランバートルモンゴル国立劇場で『シェヘラザード』『マダレナ』を上演する。東京小牧バレエ団の40名に加えモンゴル国立バレエ団の賛助出演を得ての公演。創設者・小牧正英以来の親交あるモンゴルで5年ぶりの公演となる。前者のタイトル・ロールは、このバレエ団のプリマ周東早苗、金の奴隷はモンゴルのスター、アルタンフヤグ・ドゥガラー。後者はこの3月に10年ぶりに再演された創作バレエだ。東北地方を舞台に江戸時代のキリシタン弾圧の悲劇を淡く切なく描く。国際地域(アヴィニョン)平和賞受賞作品であり、前団長・故・菊池唯夫の原振付に基づき現団長の菊池宗が改作し酒井正光が改訂振付したもの。タイトル・ロールを躍進目覚ましいソリスト藤瀬梨菜、マチアスを売り出し中の逸材・風間無限、(後藤)寿庵を菊池宗が演じる。
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館のレジデンシャル・ダンス・カンパニーNoism1は、さる4月、ワシントンD.C.公演を行った(4/26-27 John F. Kennedy Center for the Performing Arts - Terrace Theater)。『Academic -solo for 2』など3部構成の公演。「ワシントン・ポスト」紙の文化面一面に大きく取り上げられるなど反響を呼んだようだ。また、Noism1は、5月末から6月頭にかけて2011年夏に「サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011」のメインプログラムとして初演されたバルトーク中国の不思議な役人』『青ひげ公の城』をフィレンツェ歌劇場にて上演する(5/31-6/5 3回公演)。 金森穣が演出・振付を担当、Noism1が出演する。新潟を拠点としながらこれまで7か国10都市で海外公演を行ってきた。そして、今回は名門フィレンツェ歌劇場への登場である。日本のダンスシーンを大きく牽引する俊英・金森とNoismの動向からは目が離せない。
舞踏/コンテンポラリー・ダンスの大御所たちによる公演も相次ぐ。
この30年余り世界各地でツアーを行っている天児牛大率いる山海塾は5月末以降世界ツアーを行う。この冬には新作をパリ市立劇場で発表するようだ。5/23-28にかけてはロシアのモスクワ、サンクトペテルブルクで『とばり』を上演する。文化庁助成得ているのはフランス(リヨン、サンテティエンヌ)、スロベニア(マリボル)の公演。舞踏創成期から活躍する重鎮・笠井叡率いる天使館は昨秋、横浜で上演し好評を得た『虚舟Utrobne』をイタリアのローマ、パレルモで上演する。笠井の海外公演はこのところ、すっかり文化庁助成が定着している。超大物・麿赤兒大駱駝艦・天賦典式フランス・メキシコツアーも文化庁助成を受けてのもので定着している。今年はフランス(パリ)、メキシコ(ガナファト、メキシコシティアカプルコ)の4都市での公演となる模様だ。
このところ日本での公演機会が増えている勅使川原三郎+KARASであるが、欧州中心に海外での活動も継続している。文化庁助成では一昨年秋初演の『SKINNERS』のモンペリエ公演他、ヨーロッパツアーが採択された。チェコ(プラハ)、フランス(モンペリエ)の2公演が対象となる。他にも直近では6/7-9にイスラエルエルサレムにて『鏡と音楽』を上演する。内外での旺盛な活動は留まるところを知らない。
コンテンポラリー・ダンス界の寵児・近藤良平率いるコンドルズは国内各劇場から引っ張りだこで近藤個人の振付活動も引きを切らないが、このところ毎年のように海外公演を行っている。アジアツアー2013として中国(香港)、台湾(台北)、タイ(バンコク)公演を予定している。近藤の著書「近藤良平という生き方」のなかで、ショービジネスの世界で活躍する先輩振付家のラッキイ池田や香瑠鼓に「コンドルズはどうして海外公演ができるの?」と羨ましがられるというような記述がある。近藤とコンドルズの創作と活動展開はエンターテインメント性とアート性の按配が絶妙であり、それゆえに公立劇場等の企画にも採用されるし各種助成金等にも採択されるのだろう。それに何よりも多年代・多様な観客層に受け入れられる。コンテンポラリー・ダンスで他に「お笑い系」と思われたりポップで親しみやすく観客のついているカンパニーやアーティストもいるが、それでもストライクゾーンが狭く、エンターテインメント性とアート性の高いレベルでの共存を果たしているところは皆無なのが現状。コンドルズ一人勝ちである。近藤の資質に依るところ大であるが、制作展開のしたたかさには舌を巻かざるを得ない。
他にも文化庁助成受けての国際交流事業がある。『Node/砂漠の老人』は2007年以降内外で再演を続ける『True/本当のこと』を制作した組織による新プロジェクト。中国(香港)公演が採択された。劇団ティクバ+循環プロジェクトベルリン公演2012は現在、神戸に拠点を置くNPO法人DANCE BOXの制作によるもの。大阪時代から代表の大谷燠や気鋭の制作者で現・プログラムディレクターの横堀ふみらが地域に根ざした活動と世界を見据えた先鋭的な活動を両立させてきたが、神戸に移転してから再び地歩を固め意欲的な企画を連打している。地域の拠点の劇場、創造・発信する劇場としてエッジの利いた、それでいて公益性が高い公演を継続している姿勢は、より高く評価されていいのではないだろうか。日本-韓国ダンス交流(Exchange)プロジェクト Yokohama Dance Collection EX × Seoul Dance Collection "Dance Connection"(仮称)は公益財団法人横浜市芸術文化振興財団の制作。ご存じのように毎年2月に行われる「横浜ダンスコレクション」の主催者である。横浜ダンコレから広く世界に羽ばたいたアーティスト、振付家として社会的に認知された人は数知れない。毎年のコンペの開催に加え、過去の受賞者のケアまで心血そそぎ丁寧に行っているスタッフの熱意には、ただただ頭が下がるばかりだ。韓国やフィンランドとの国際共同制作も活発であり、今年度も日韓の交流プロジェクトが採択された。
文化庁助成以外にも海外公演は少なくない。
フラメンコ界の巨匠で文化功労者の栄誉に輝く小島章司は、きたる5/23-26にスペイン・バルセロナにて行われる「シウダ・フラメンコ」と名付けられたフェスティバルに招聘された。スペイン屈指の大規模なフラメンコ・フェスティバルだという。そのオープニングとクロージングを飾る公演に招かれたというから、いかに小島がフラメンコの本場スペインで高く評価され敬愛されているかが見て取れよう。
2008年に「トヨタコレオグラフィーアワード2008」のグランプリにあたる《次代を担う振付家賞》を獲得、昨年末には「週刊オン・ステージ新聞」新人ベスト1振付家に選出されコンテンポラリー・ダンス界の中核を担う存在に成長してきた金魚(鈴木ユキオ)は2月に自主公演「揮発性身体論」を行ったのち、5月〜7月は海外ツアーに出ている。5/17-18にはイギリスの「Jurassic Coast Earth Festival 2012」、5/27にルーマニアの「シビウ国際演劇祭」、6/1-3にはルクセンブルク2ヵ所を回る。さらに9月には新作をたずさえアメリカツアー/アリゾナ他を行うという。鈴木は土方巽の創設したアスベスト館にて舞踏を学び、独自のダンス・メソッドを追求してきた。舞踏/モダン/コンテンポラリーといったジャンル分けを超越するしなやかにして強度あるダンス・スタイルを獲得するに至った極めて貴重な存在である。内外でのさらなる活躍を望みたい。
海外のダンス・演劇フェスティバルの常連で年中世界各地を回っているのが梅田宏明/S20。ダンスだけでなく照明・音響・映像等の細部に至るまで独自の美意識を反映させた緻密なパフォーマンスを特徴とするマルチメディアアーティストである。国内での公演は少なく2009年にprecog、STスポット、横浜赤レンガ倉庫1号館が手を組んで初単独公演を組んだ際には英断に心から拍手を送った。2010年には「あいちトリエンナーレ2010」でも単独公演として取り上げられた。その際は足を運べなかったが制作サイドの見識の高さに感じ入った。梅田は直近では、5/31-6/2 シンガポール国立劇場 Esplanade で行われる「ConversAsians」に参加。アジアの振付家を世界に紹介するフェスティバルだという。また、9月、神奈川芸術劇場(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)、NPO法人ドリフターズ・インターナショナル、S20の共催によって久々の単独公演が予定されている模様。ハッキリ言って必見。楽しみにしたい。
ヒップホップのテクニックをベースにしたオリジナルのダンスを志向しコンテンポラリー・ダンスに新風を吹き込んだとされるKENTARO!!はフランスやポーランドなどで公演を行っているが、昨年末にはドイツ3都市ツアーを敢行している。きたる6/1-2に東京ELECTROCK STAIRSとして韓国の「釜山ダンスフェスティバル」に参加、6/5には『雨が降ると晴れる』をたずさえ「インドネシアダンスフェスティバル」に参加するようだ。
※5/17 KENTAROを追加


素顔のスターとカンパニーの物語 闘うバレエ (文春文庫)

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