ネットでの情報発信と受容・共有について

今年はバレエ『くるみ割り人形』(チャイコフスキー曲)初演から120年を迎えた。そのためか国内でも新制作や新演出版の上演が相つぐ。在京団体では小林紀子バレエ・シアター(小林紀子版)、NBAバレエ団(久保紘一版)、スターダンサーズ・バレエ団(鈴木稔版)、谷桃子バレエ団(望月則彦版)である(公演日順)。また、東京バレエ団はオーソドックスなものとして知られるワイノーネン版と巨匠振付家の人生と創造の原点を描くモーリス・ベジャール版を連続上演するという意欲的な企画を立てた。
話題性があるだけに、もっと盛り上がってもいい。それなのに、ダニール・シムキンの客演やベジャールというブランドのある東バはともかく他の公演の情報はあまり広く行きわたっていないという印象が否めない。そもそも『くるみ』はドル箱作品ともいわれるように宣伝しなくても客が入るとされている(昨シーズンの新国立劇場バレエ団公演でも有料入場率90%超という動員だった)。身内客だけでも動員できる。多くの団が例年上演するため、広報に力入れ予算をかけても埋没しがちになるのも確かだろう。
そんななか先日やっとスタダンがリハーサル映像をホームページにアップした。が、創意豊かな演出・振付により大ヒットした『シンデレラ』に続く鈴木稔の演出・振付と新国立劇場『アラジン』の豪華な舞台美術で話題を呼んだデザイナー、ディック・バードの装置・衣装により新制作するのに内容面・ビジュアル面が全くといっていいほどみえない。予告編とは違うと言われるとそれまだけれど、せっかく手間をかけるのなら、どういう作品になるのかを垣間見せ、期待を高めてほしかった。

最近は招聘元やバレエ団がホームページやブログ、SNS等を駆使して情報発信や交流につとめている。先日、2013年新春を飾る「ブベニチェク・ニューイヤーガラ〜カノン〜」Skypeミーティング《Bunkamura⇔パリ》というものに出席したが、これはブロガーやメディア関係者がSkypeを通してパリにいるイリ・ブベニチェク、エルヴェ・モロー、ドロテ・ジルベールと交流するという企画。主催者による一方的な発信ではなく、観客・受信者サイドとの交流を深めようというイベントだった。Web上の情報ことに観客による有力バレエサイトやブログの影響力が良くも悪くも増していることは否定できないだろう。舞踊メディアでもWeb媒体の存在感が増している。情報をいち早く発信・共有できたり、無料で簡単にアクセスできる利器を知ってしまった以上、後戻りはできない。
【バレエ情報ポータルサイト・バレエナビ掲載記事】
ブベニチェク・ニューイヤーガラ〜カノン〜Skypeミーティング Bunkamura⇔パリ

http://www.balletnavi.jp/pickup/?p=1454

とはいえ、観客・情報を受ける側としては発信者に過剰に期待するのは考えもの。たとえば「早く配役が知りたい」「ダンサーの情報が知りたい」「舞台のウラ側が知りたい」という欲求は誰にでもあろうが、最近SNS等を覗くとエスカレート気味にも感じる。主催者等がWeb等で情報発信するのは、ファンへのサービスであるとともに新たな観客層にアピールし、情報にアクセスしやすくして公演に興味持ち足を運んでもらえるようにしたいからであろう。現状では前者にベクトルを傾けざるを得ないという印象。熱心なファンは非常に大切。だが、より多くの人に関心を持ってもらうことによってシーンが活性化する。そのためにWebやSNSが一層効果的に使われることを願いたい。
ファンに向けての情報発信と言えば、牧阿佐美バレヱ団のダンサーが管理・運営するAsami Maki Ballet Hot Lineが開設された。バレエやダンサーをより身近に感じてもらえるような楽しいサイトを目指して更新していくらしい。ファン向けの情報発信と交流をダンサーたちが自主的に行うというのは、なかなか良いアイデアかもしれない。


チャイコフスキ-/バレエ<くるみ割り人形>

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牧阿佐美バレヱ団「くるみ割り人形」<全2幕> [DVD]

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