K-BALLET COMPANY『シンデレラ』クローズドイベント
K-BALLET COMPANYは2001年の『ジゼル』を皮切りに続々とグランド・バレエの制作を手掛けている。『白鳥の湖』(2002年)『眠れる森の美女』(2003年)『コッペリア』(2004年)『ドン・キホーテ』(2004年)『くるみ割り人形』(2005年)『海賊』(2007年)『ロミオとジュリエット』(2009年)を芸術監督・熊川哲也独自の演出・振付によって上演してきた。
熊川版の特徴としてストーリーテリングの巧みさが挙げられる。古典の様式を尊重しつつアレンジを加える。初めてバレエを観る人にも伝わりやすい。また、大胆な構成が話題になった『くるみ割り人形』『海賊』はじめ創意豊かな解釈をほどこすことも。豪華で重厚な舞台美術・衣裳もウリである。K-BALLETの舞台は広い観客層に訴える。
K-BALLET の全幕バレエ最新作が『シンデレラ』である。2012年1月、Bunkamuraオーチャードホールの芸術監督に就任した熊川が、その直後に手掛けた舞台。全12公演ソールド・アウトを記録した。熊川が出演していないにも関わらずに。『シンデレラ』といえば熊川がプリンシパルとして在籍した英国ロイヤル・バレエ団のアシュトン版が名高いが、そのテイストも汲みながら独自のタッチで仕上げ好評を得た。美術・衣裳も豪華でファンタスティック。そして、何よりもプロコフィエフの音楽を尊重しているのが好ましい。音と一体化した振付が心地よく幻想的な物語に心地よく身を委ねることができる。
Bunkamuraオーチャードホール Kバレエ カンパニー Spring 2013「シンデレラ」
1年ぶりの再演(3月6日〜10日@Bunkamuraオーチャードホール)に際し2月15日、東京・赤坂のTBS内でクローズドイベントが催された。
TBSアナウンサー安東弘樹の司会のもと進行。昨年の『シンデレラ』の公演をまとめた映像が映写され、その後K-BALLET COMPANYのプリンシパル松岡梨絵、プリンシパル・ソリストの宮尾俊太郎が登場しトークショウが繰り広げられた。ふたりは昨年の公演のファースト・キャストである(筆者も両者主演日に観劇した)。
いまや押しも押されもせぬトップ・ダンサーとして君臨する松岡。シンデレラの人物像について「温かくけなげで芯の強い女性」と語る。初演時、役作りに関して「誰かの真似ではなく自分のシンデレラを演じることと、2幕の(舞踏会)の衣装になったときに、お客様にジーンとしてもらえるように一幕の演技を大事にすること」を意識したという。美しいプロコフィエフの旋律だが取り組むのは難関だったらしい。「ちょっとでも音がずれると指摘されました。一番難しいのは演技のときの音の取り方。掴みにくかったですね」
甘いマスクと偉丈夫な体つきを誇る宮尾は『シンデレラ』の王子役に関して「理想の王子様。一番シンプルだけれど一番奥が深い」と話す。テレビ・映画への出演も増える売れっ子だが「ダンサーもいろんな役を演じ全くの別人になる。演じる役のバックグラウンドを考えたり研究したりする。アプローチの工程は変わらないですね」とクール。ドラマ出演がバレエに生きるか?という安東アナウンサーの質問には「その場で映像を確認できるので自分を第三者目線で観られる。お芝居の間(ま)、受ける芝居を勉強させていただきました」と謙虚に語った。
『シンデレラ』のみどころは?
松岡「幕が開いたとたん絵本が開いたかのようになる。全てがみどころです」
宮尾「世界観が完成されている。暖炉のセットなど曲がっていたりして不思議な世界観が出ている。熊川ワールド!」
その後、『シンデレラ』の衣裳制作を行なう林なつ子(工房いーち)が登壇しトークに加わった。新国立劇場のオペラ・バレエ等の衣裳制作にも携わっている第一人者だ。
『シンデレラ』の衣裳デザインは英国はじめ世界各地のバレエ団に招かれているデザイナー、ヨランダ・ソナベント。その大胆かつ複雑なデザインを形にするのは難題らしい。
「ヨランダさんは元々絵描きさんなんですが、写実的ではなく発想がどこから出てきているのか?というような、なかなかないデザイン。全部ムラ染めしなければなりません。赤ならば赤一色ではなく紫が混じったり黒が混じったりグレーが混じったりというように。業者さんに任せられないのでガスコンロに入れて染めたりもします」
バレエ衣裳制作において心掛けるのは「ダンサーをきれいに魅せなければならないこと」。『シンデレラ』で使用する衣裳は約150着。「一つひとつダンサーの寸法に合わせて作らなければいけない。オートクチュールになるんでしょうね……」と語るように、すべてが手作業。また、デザインの示す色を出すためにライティングとの兼ね合いも考える。照明スタッフに「この色を出してね!」という掛け合いもするという。
こだわりいっぱいの衣裳を身に着けるダンサーは、どう感じているのだろう。
松岡「なつ子さんの衣裳を着ると役そのものになれる。綺麗に見せてくれる。一点ものに近いしデザインも素敵で上手く踊れるような気がします!」
宮尾「本番前のスイッチの役割ですね。衣裳を着ると、その物語の人物になれる」
林は熊川との打ち合わせの際の珠玉のエピソードを披露してくれた。四季の精がシンデレラを舞踏会へと導く場面、熊川版には創意がある。「四季の精じゃなくてもいいのでは?」となり、バラ、トンボ、キャンドル、ティーカップが踊る趣向になった。松岡が「普段からシンデレラのことをみている物たちが妖精になり、守護神になってパーティへ連れて行ってくれるので心温まる」と愛着持って語るようにユニークな仕上がりだ。
職人芸を極める林だが独学だという。海外のバレエやオペラが来るとウラに潜り込んで学んだという苦労人。『シンデレラ』には思い入れが深いようだ。
「(初演の)舞台稽古で1幕が終わったとき、観ていたスタッフの皆さんが感動していました。そんなことは初めて!熊川さんも一人ひとりに頭を下げて感謝の意を示してくれました。そういう喜びが直に見えるから(仕事を)続けてこられた」
林の考える『シンデレラ』のみどころとは?
「みすぼらしい衣裳を着ていたシンデレラがスモークのなかから金色に輝いて出てくるところ。鳥肌が立ちます。まさにシンデレラ・ストーリー!」
松岡と宮尾は今回の再演にも登板する。熊川が演出・振付に徹した公演でファースト・キャストとして成功に導いたことは自信になったことだろう。再演に期する思いとは?
宮尾「いままでは熊川さんを見て役を研究していました。熊川さんが踊らないので、ずっと(自分たちの)リハーサルを観ている。より研究する機会ができた。ハードな日々を送った思い出があります。(主演した)5公演が終わったときは達成感というよりも解放感を感じました。今回は体に動きが入っているので (演技に)より深みと幅を増やしていきたいですね」
松岡「初演でタイトルロール、前例がない役柄を演じるので試行錯誤しました。ディレクターは「シンデレラとはこういう女性だ」と押しつけることなく任せてくださった。二幕で美しい衣裳を着たときに「当たり前に見える」と指摘を受け、役作りに終わりはないと感じました。演技を掘り下げていきたいと思います」
今回の再演では松岡・宮尾ペア含め4組が競演する。それぞれの個性にじむ演技を見比べるのも一興だろう。惜しみない手間と労力の掛けられた衣裳や装置・照明等のマジックもあいまって生み出される夢の舞台を楽しみにしたい。
またK-BALLETは4月11日〜14日にBunkamuraオーチャードホールでスケール大きな創作『ベートーヴェン 第九』に加え熊川がベンジャミン・ブリテン曲に振り付ける新作『シンプル・シンフォニー』、英国ロイヤル・バレエ団の専任振付家として注目される気鋭リアム・スカーレットに委嘱した新作を上演する。併せて注目したい。
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