イサム・ノグチ母を描く「レオニー」 勅使川原三郎出演

日系アメリカ人の著名彫刻家イサム・ノグチ(1904〜1988)は、日本の詩人で慶應義塾大学教授の野口米次郎とアメリカの作家で教師のレオニー・ギルモアとの間に産まれた。事情あってシングルマザーとなったレオニーは、若きイサムとともにふたつの国で、戦争等の混乱の時代を生き抜くことになる。そのレオニーの波乱に満ちた生涯を取り上げた映画が今秋公開(11月20日)される。「ユキエ」「折り梅」の松井久子監督が完成に7年を要したという「レオニー」である。100年前、ひとりで日本の地を踏んで天才芸術家を育てた女性の生をドラマティックに描く感動作として注目されている。
イサムといえば、ニューヨークで活躍していた日本人舞踊家・伊藤道郎の作品に参加して仮面を造ったのを嚆矢に舞台美術家としても活躍した。モダンダンスの巨匠であるマーサ・グレアム作品の舞台装置の制作によってグレアムの創作に多大な影響を及ぼしたことは知られよう。「レオニー」では、イサムを彷彿とさせる彫刻家役に舞踊家振付家勅使川原三郎がキャスティングされているというのが話題だ。主人公レオニーを演じるエミリー・モーティマーのほか中村獅童原田美枝子吉行和子竹下景子柏原崇大地康雄中村雅俊らのキャスト陣とともに勅使川原の演技にも注目したい。


映画の原案本

イサム・ノグチ(上)――宿命の越境者 (講談社文庫)

イサム・ノグチ(上)――宿命の越境者 (講談社文庫)

イサム・ノグチ〈下〉―宿命の越境者

イサム・ノグチ〈下〉―宿命の越境者

イサム・ノグチ」特集号

Casa BRUTUS特別編集 イサム・ノグチ伝説 (Magazine House mook)

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勅使川原三郎出演映画「五条霊戦記

五条霊戦記//GOJOE [DVD]

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映画「石井輝男 映画魂」に『土方巽野辺おくり祭り「むしびらき」』の記録映像収録

高倉健主演「網走番外地」シリーズ、東映の異常性愛路線の「徳川女刑罰史」、つげ義春原作「ねじ式」等のカルト的名作で知られ、ジョン・ウークエンティン・タランティーノら今をときめく世界の鬼才映画人にも大きな影響をあたえた監督が石井輝男だ。没後5年になるが、その人気は衰えを知らないどころか日増しに高まっている。
8月には東京・シネマヴェーラ渋谷にて30作品一挙公開となる特集上映が組まれるという。同時期にユーロスペースでレイトショー公開される。石井作品の出演者をはじめとした関係者のインタビューや1995年に撮影された「無頼平野」の撮影風景などで構成されるドキュメンタリー映画石井輝男 映画魂」(監督:ダーティ工藤)である。
このドキュメンタリー映画のなかには、1987年に行われた『土方巽野辺おくり祭り「むしびらき」』の記録映像が入っているようだ。撮影は石井監督自身の手によるものという。石井は土方とは何度もコラボレーションを行ったことで知られる。なかでも1969年公開の「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」は、グロテスクな内容によって今なおカルト的な人気を誇る。今夏封切られる「石井輝男 映画魂」収録の野辺おくり祭「むしびらき」の映像は、盟友の手による貴重なものであり、舞踏ファンには見逃せないだろう。
「石井輝男 映画魂」公式ブログ


映画『石井輝男映画魂』予告編


石井輝男映画魂

石井輝男映画魂



江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 (日本カルト映画全集)

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 (日本カルト映画全集)

中島哲也監督「告白」に黒田育世が出演!

昨年度の本屋大賞受賞作である湊かなえのベストセラーを原作に、松たか子主演で映画化した「告白」。「下妻物語」「嫌われ松子の一生」といった芸術性と商業性を兼ね備えた秀作を連打する中島哲也監督最新作ということもあって楽しみにしていた。
ひとり娘を亡くした中学校教師(松)が、担任を務めるクラスの生徒に娘を殺されたと語りだす告白にはじまり、教師、生徒やその親たちといった事件の当事者・関係者の相次ぐ告白によって、事件の真相が少しづつ明らかになっていく。殺人、暴力といった陰惨なシーンや学級崩壊、家庭崩壊といった現代社会の病巣が描かれる重い内容である。とはいえ、愛憎の果てに浮かびあがるのは、生命の尊厳。ここでは、中島監督一流の、華も実もあるケレン味たっぷりな映像・演出は影を潜める。変わって、無機的で荒廃感の漂う映像と、役者の表現力と存在感をクリアに引き出す演出が特徴的だ。レディオヘッドの美しい歌声が俗に塗れた愛憎劇に聖性をあたえており心に残った。
冒頭から明らかにされる犯人2人のうちのひとり少年A・修哉の生みの親をコンテンポラリー・ダンサー/振付家黒田育世が演じているのも目を惹いた。ネタバレになるので詳しくは書けないけれども、少年の殺人に至る大きな動機を占めるものに、黒田扮する彼の生みの母親との葛藤がある。登場場面はさほど長くないが、重要な配役をとても印象的に演じていた。これまで黒田が舞台で演じてきたなかのある種の魅力が活かされていて、「なるほどそう来たか!」と唸らされるような登場の仕方だった。
ちなみに、もうひとりの犯人少年B・直樹の母親を演じたのは木村佳乃。その木村が以前、三池崇史監督の異色作「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(2007年)に出演した際に、同作の振付を手がけたのが黒田である。その際に両者は知り合い、以後公私共に仲がよいらしい(黒田の主宰するBATIKの舞台を映像化した「ペンダントイヴ」公開の際のトークショーで木村と黒田が対談して明かしている)。そのふたりが母親役で共演するというのはめぐり合わせなのか。コンテンポラリー・ダンサーが出演したり、振付でかかわった映画には、トホホな出来のものも少なくない。当代一流の実力派流行監督の快作に出て、偉才ぶりの一端を発揮できた黒田は、なんとも幸運だと思う。


映画「告白」公式サイト


映画「告白」予告編 最新long版 松たか子 岡田将生


告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

『スイートリトルライズ』と表現者・小林十市

アート系映画フリーク(邦画)に好きな映画は何かと問えば、挙げる人が少なくないであろうカルト映画『三月のライオン』で知られる矢崎仁司監督の最新作『スイートリトルライズ』が3月13日(土)から東京 渋谷・シネマライズほかで公開されています。
江國香織の同名の恋愛小説の映画化で、理想的な夫婦の間に生まれる溝を描いたもの。テディベア作家の瑠璃子中谷美紀)とIT会社勤務の聡(大森南朋)が、個展で自分のベアを欲しがる春夫(小林十市)、大学時代のサークルの同窓会で再会した後輩のしほ(池脇千鶴)とそれぞれ逢瀬を重ねていく――。穏やかに見える日常に潜む陰を静謐な映像美とともに浮き彫りにしていく不思議な魅力に満ちた作品でした。
スイートリトルライズ』予告編

随分前に予告編を見ていたものの劇場で本編を見るまで意識していなかったのですが、元ベジャール・バレエ・ローザンヌで活躍した小林十市が重要な役で出ていました。小林のベジャール・ダンサーとしての現役時代を知らないバレエ・ファンも増えつつあり、現在は「ブログ・ジャンプの人」(!)「首藤(康之)さんの友達」(笑)というイメージがあるかも。しかし、小林のために振付けられた『くるみ割り人形』猫のフェリックスや『バレエ・フォー・ライフ』のミリオネア・ワルツ、そして小林ひとりのために創られた『東京ジェスチャー』はベジャール・バレエの歴史のなかでも忘れ難いもののひとつでしょう。軽やかで変幻自在、凛としていて透明感があって飄々としている――数多いるベジャール・ダンサーの系譜のなかでも特異な、得難い存在のひとりではないでしょうか。
小林は、腰の故障による引退後、商業演劇を中心とした俳優活動を展開し、私も演劇デビュー作の『エリザベス・レックス』(青井陽冶演出)や『友達』(岡田利規演出)を観ています。先に触れた魅力は、俳優活動でも活かされ、繊細な感性を発揮して舞台出演が相次いでいるようです。その傍ら、パリ・オペラ座バレエ団や東京バレエ団ベジャール作品の振り付け指導を行っています。東京バレエ団に指導した『中国の不思議な役人』や『火の鳥』といったベジャールの名作の仕上がりは素晴らしく、指導者としても極めて優秀であることを証明。上野水香に『ボレロ』を指導したのも確か小林でした。
今回の映画『スイートリトルライズ』は、ありふれた日常の生活の営みのなかに忍び寄る不安や死のイメージが展開されます。小林は、そのなかでベッド・シーンなども演じますが、確かな実存的な存在感を醸しつつ妖しい独自の魅力を出しています。新劇や小劇場の出身者ともテレビやモデルから出てきた人とも違う魅力を発揮していました。バレエ・ダンサー出身の表現者としてのマルチプルな活躍に今後も要注目。演劇・映像分野での活躍も願いつつ、以前、ある媒体の記事でも記したのですが、いつの日か時期が来れば、ダンスを踊ってくれる小林の姿を見てみたいと改めて思いました。
小林十市オフィシャルWEBサイト
小林十市オフィシャルウェブサイト【ダイアリー】

異色の話題作『シャネル&ストラヴィンスキー』

第62回カンヌ国際映画祭クロージング作品として話題を集めた映画『シャネル&ストラヴィンスキー(原題:Coco Chanel & Igor Stravinsky)』が1月16日に公開されました。稀代のデザイナーであったココ・シャネルと作曲家イーゴル・ストラヴィンスキーという、20世紀初頭のベル・エポック期に活躍した天才の秘められた愛を描く異色作です。
シャネルとストラヴィンスキーをつなげるのがストラヴィンスキーが書き、センセーションを巻き起こしたバレエ音楽春の祭典」。1913年、パリのシャンゼリゼ劇場で行われたバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)公演に遭遇し衝撃を受けたシャネルが7年後、ストラヴィンスキーに出会う。そして、家族とともに路頭に迷う彼に資金援助とパリ郊外の別荘を提供することによって両者の関係はただならぬものへと進展していく――。
シャネルのモデルを務めるアナ・ムグラリスがシャネル役を演じ、衣装デザインをカール・ラガーフェルドが担当したシャネル公認作品。単なる伝記作品ではなく、虚実織り交ぜつつ天才作曲家ストラヴィンスキーを愛する女性、そしてパトロンとしての側面からシャネルを描きます。背徳の恋が核になっているのに、よくシャネルが公認したなと驚かされます。繊細な芸術家のストラヴィンスキー、恋にも仕事にも強い女性のシャネルのあいだの機微と葛藤に加え、病弱なストラヴィンスキーの妻との三角関係やシャネルの代名詞といえる香水「No.5」誕生のエピソードも盛り込まれ飽かせません。
バレエ・ファンとしては、1913年のバレエ・リュス公演の模様が再現されているのがうれしい。前衛的な音楽と振付に嘲笑と野次がおこって場内は混乱状態に陥っていくさまが手に取るように伝わってきます。舞台袖では振付者のニジンスキー自らが拍子を数えてダンサーたちに合図。話題を巻き起こしご満悦な興行師のディアギレフ、不評の渦に互いの仕事を罵りあうストラヴィンスキーニジンスキーらの姿が短い場面とはいえ人間味たっぷりに描かれています。別のシーンではマシーンも登場します。
この映画の存在を昨年5月に知って以来、公開を心待ちにしていました。監督はパンクな映像が鮮烈なカルトアクション『ドーベルマン』(1997年)で知られるヤン・クーネンというので、どんな映画に仕上がっているのか少々不安もあったのですが、シックで落ち着いた色彩と奥行きあるカメラワークが見事でした。音楽はガブリエル・ヤレドローラン・プティバレエ音楽も手がける映画音楽の巨匠ですが、プティといえば、初期にバレエ・リュスと仕事をともにしたジャン・コクトーと公私共に交流あったことで知られます。連綿と続き交差する芸術家たちの系譜に思いをはせざるを得ません。

映画「シャネル&ストラヴィンスキー」公式サイト

http://www.chanel-movie.com/



『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』新文芸坐で上映

暗黒舞踏の始祖・土方巽の出演したカルトシネマ『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(監督:石井輝男)が1月16日(土)22:30〜新文芸坐のオールナイト上映「新春シャンソン歌手ナイト 高英男×美輪明宏」で上映されます。昨年4月に次ぐ同劇場での上映。
本作は1969年に東映の制作・配給した「異常性愛路線」のプログラムピクチャーとして製作されたもの。『孤島の鬼』『パノラマ島奇談』など江戸川乱歩作品を寄せ集めた怪奇色の強い作品。内容過激、いわゆるグロ映画なため成人映画指定され、いまに至るまで地上波未放送です。長年ソフト化もされず名画座・ミニシアターでの上映をチェックするしかありませんでした。誰にでも薦められるという性質ではないカルトムービーですが、土方ファンや研究者で未見ならば観ておいたほうがいいかもしれません。
レアな作品でしたが2007年にアメリカでDVDが発売され、輸入版が大手レコード店やネットで購入できるようになりました。とはいえスクリーンで観たい猛者!?は、ぜひ。

新文芸坐オールナイトスケジュール
http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html


土方の出演した映画は結構ありますが、映像として残された最後の公演を記録したものを紹介しておきます。1973年に京都大学西部講堂で上演された伝説の舞台です。


岩名雅記監督作品『朱霊たち』ポルトベロ国際映画祭グランプリ受賞

舞踏家・岩名雅記の監督した映画『朱霊たち』がポルトベロ国際映画祭ベストフィルム(グランプリ)を受賞したそうです。岩名さんからのメール(BCC)で知りました。
岩名は1945年生まれ。舞踏研究所白踏館を主宰し、現在は仏・ノルマンディに在住し公演活動を行なっています。岩名は大学卒業後TBSでドラマ制作に関わり、映画を撮ることを念願としてきました。製作に4年をかけデビュー作『朱霊たち』を完成。2007年、ポレポレ東中野でのレイトショー公開を皮切りに内外で上映を重ねてきました。
朱霊たち』は、戦後7年目の東京・麻布の廃墟が舞台。生と死、現実と夢が交錯する白昼夢のようなドラマをモノクロフィルムに定着させた異色作です。澤宏、長岡ゆりはじめ日本の舞踏家に加え、イタリア、フランス人キャストが出演。パスカル・マランによる撮影が息をのむように美しく、すばらしかったのを覚えています。
朱霊たち』の受賞したポルトベロ国際映画祭は、インディペンデントの映画祭としては英国最大規模を誇るとのこと。長編、短編、ドキュメンタリー、アニメなど含めた約700本のフィルムのなかから今回、グランプリに選ばれたそうです。
なお岩名は、劇映画第二作「夏の家族」を製作中。2010年1月のロッテルダム映画祭出品を目指して準備中とか。そちらの日本公開も楽しみなところです。
ポルトベロ国際映画祭 公式ホームページ
http://www.portobellofilmfestival.com/
朱霊たち』公式ホームページ
http://www.shureitachi.com/
岩名雅記 公式ホームページ
http://iwanabutoh.com/