「DANCE FILM VARIATION ダンス・フィルム・ヴァリエーション」&ヴィスコンティ『ルートヴィヒ 復元完全版』

先日はじまったコンテンポラリー・ダンスの祭典「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009」。その一環のプログラムである「DANCE FILM VARIATION ダンス・フィルム・ヴァリエーション」は、フランスの映像アーカイブシネマテーク・ドゥ・ラ・ダンスの協力を得て、20世紀のダンスの歴史をスクリーンで振り返ることができます。
http://www.imageforum.co.jp/dance/Site/top.html
コンテンポラリー・ダンスのファンや研究者には見逃せないでしょうが、バレエ・ファン的にもチェックしたいものも。早速、モーリス・ベジャール作品特集とマギー・マラン特集を観てきました。ベジャール特集は、ベジャールの代表作『春の祭典』『ボレロ』を1960年代の二十世紀バレエ団の上演でノーカット上映。デビュー作『孤独な男のためのシンフォニー』も入っています。ダンサー、ベジャールも登場。ベジャール関連の映像ソフトは結構出ていますが、1960年代の二十世紀バレエの上演をじっくり観られるのは貴重といえます。マギー・マラン特集では、マランの出世作『May B』から近作の『Umwelt』まで抜粋ながら一望できました。見逃せないラインナップが続きますが、ポストモダンダンス特集が1回しかないのは意外。日本のダンス シーンにおいてポストモダンダンスの再考の文脈が出てきていることもあり、関心の深い人も少なくないと思うのですが・・・。
さて、会場は東京・渋谷のシアターイメージフォーラム。連日21:00からのレイトショーとして10月8日まで上映されます。青山劇場/青山円形劇場、スパイラルホールで行われるダンストリエンナーレ トーキョー2009 のソワレ公演を観たあとでも間に合うように組まれているようです。回によっては混雑も予想されるため、早めに整理券をGETできれば吉かもしれませんね(この劇場は朝から当日上映分の整理券を発行)。


あと、ダンス絡みの映画ということで、ルキノ・ヴィスコンティ監督『ルートヴィヒ 復元完全版』(1972年)を紹介しておきましょう。9月26日(土)東京・池袋の新文芸坐において「魅惑のシネマクラシックス」シリーズとして2回上映(上映時間237分)。
http://www.shin-bungeiza.com/
イタリアの生んだ巨匠ヴィスコンティの代表作のひとつであり、バイエルン国王のルートヴィヒ2世(1845〜1886)の数奇な後半生を描く超大作です。ルートヴィヒ2世といえば、リヒャルト・ワーグナーを援助したことで知られる芸術愛好家。政治や恋愛を避け、芸術に魅入られ、孤独の世界を彷徨う彼の魂の遍歴が描かれます。
ルートヴィヒ2世は、バレエ・ファンには、ジョン・ノイマイヤーの代表作『幻想・白鳥の湖のように』の主人公として知られます。古典バレエの代名詞『白鳥の湖』の王子をルートヴィヒ2世に置き換えたもの。錯乱した王が古城に幽閉される場から始まり、王が回想のなかで『白鳥の湖』を踊る王子役に同化するという劇中劇の構成が印象的です。ヴィスコンティの映画もルートヴィヒの狂気や苦悩を流麗・格調高いカメラワークで捉えて秀逸。本物の古城や美術品を用いて撮影されたという豪華絢爛・重厚な場などは、やはりスクリーンで観るに限ります。上映環境もいいので特に未見の方はぜひ。



ルートヴィヒ2世―白鳥王の夢と真実 (ヒストリー・ブック・シリーズ)

ルートヴィヒ2世―白鳥王の夢と真実 (ヒストリー・ブック・シリーズ)

ヤン・クーネン監督『シャネルとストラヴィンスキー』

先ごろ閉幕した第62回カンヌ国際映画祭のクロージング作品としてヤン・クーネン監督作品『シャネルとストラヴィンスキー/シークレット・ストーリー(原題:Coco Chanel & Igor Stravinsky)』が上映され話題を呼んでいるようです。
20世紀初頭ベル・エポック最盛期に活躍、今年誕生100年を迎えるバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の創作にも多大な貢献を果たしたロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーと20世紀を代表するデザイナー、ココ・シャネルの愛を描くものです。
シャネルのモデルを務めるアナ・ムグラリスがシャネル役を演じ、衣装デザインをカール・ラガーフェルドが担当したシャネル公認作品。稀代の天才作曲家ストラヴィンスキーを愛する女性、そしてパトロンとしての側面からシャネルを描いたものとか。
伝説の踊り手ワツラフ・ニジンスキーが振り付け20世紀舞踊に革命をもたらした『春の祭典』などの作曲者ストラヴィンスキーの活躍したベル・エポック期のパリが描かれ、バレエ・ファン、音楽ファンにとっても注目される一本。パンクな映像美で魅せたアクション『ドーベルマン』(1997年)で知られるクーネン監督のこと、一体どんな映像に仕上がっているのか!?も見逃せないところでしょう。日本では来年春に公開されるようです。


imdbデータ
http://www.imdb.com/title/tt1023441/

BATIK『ペンダントイヴ』がレイトショー公開

黒田育世率いるダンスカンパニーBATIKの『ペンダントイヴ』(2007年3月初演)がDVD化され、それに先立って東京・渋谷シアターイメージフォーラムにて5月16日〜22日まで限定レイトショー(21:00〜)が行われるようです。上映に先立ってトークイベントやパフォーマンス、メイキング上映等日替わりでイベントも(詳しくは公式HP)。
BATIKといえば昨年の秋、NHK「芸術劇場」で代表作『SHOKU』が放映され、そのフェティッシュで過激、女性の生理感覚を衒いなく曝け出したパフォーマンスによって大反響を巻き起こしました。常套句ですが、もっとも注目されるカンパニーのひとつ。
『ペンダントイヴ』は『SHOKU』や朝日舞台芸術賞を獲得した『花は流れて時は固まる』を経て発表された大作。過激で過酷、暴力的な作舞はそれまでの作品同様ですが、暗く内向的な印象を与えてきた旧作とは違い切実に「生」への希望を謳いあげた、新境地といえます(筆者は当時「オン・ステージ新聞」1703号・2007年にてレビュー)。
映像版は“7台のハイビジョンカメラで撮影し、ダンサーたちを多角的に捉えた映像版「ペンダントイヴ」。『だれも知らない』『歩いても歩いても』(是枝裕和監督)などで知られる名カメラマン山崎裕が撮影監督を務め、舞台収録としては異例の手持ちカメラも駆使”(HPより)して仕上げたとのこと。舞台でみるのとは違った感興が味わえるかもしれません。ダンスビデオの新たな可能性を示唆するものとしても注目されるのでは。

公式HP
http://www.pendanteve.com/

予告編

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』新文芸坐で上映

暗黒舞踏の始祖・土方巽の出演したカルト映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(監督:石井輝男)が4月25日(土)22:30〜東京・池袋の新文芸坐のオールナイト上映「キング・オブ・カルト 石井輝男」のなかで上映されます。
本作は1969年に東映配給の「異常性愛路線」のプログラムピクチャーとして製作されたもので、『孤島の鬼』『パノラマ島奇談』など江戸川乱歩作品を寄せ集めた怪奇性の強い作品。過激な内容のため成人映画に指定され、地上波では未だに未放送、長年ソフト化もされてこなかったため名画座・ミニシアターでの上映をチェックするしかありませんでした。昨年、中居正広主演『私は貝になりたい』で再び注目を集めた脚本家・橋本忍の監督作『幻の湖』と並ぶカルト邦画といっていいでしょう。
そんななか、2007年アメリカでDVDが発売され、輸入版が大手販売店やネット通販で購入できるようになりました。レア度は低くなりましたが、名画座のスクリーンでコアな映画ファンたちと石井のカルトな世界を満喫するのは一興です。舞踏ファン、土方ファンは一度スクリーンで観ておいて損はないでしょう。他にも『直撃地獄拳 大逆転』(1974年/東映)、『忘八武士道』(1973年/東映)、『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)とエログロ中心ですが快作の揃うディープなプログラム。そそられます。


新文芸坐オールナイトスケジュール
http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html


映画『追悼のざわめき』

伝説のカルトムービーが還ってきた!!
1988年5月公開の松井良彦監督作品『追悼のざわめき』は賛否両論を巻起こした。舞台は大阪のドヤ街。若い女性の惨殺事件が続発する。 被害者たちは下腹部を切り裂かれ、生殖器が持ち去られていた。 犯人は青年・誠。 惨殺した女性から奪った生殖器をマネキンのなかに埋める。小人症の兄妹、兄にレイプされ殺される少女、その妹の腐った死体を貪る兄といった人物たちが登場。全編、暴力と差別が入り乱れる。
モノクロ画面に映し出される生々しいまでの暴力と残酷。野卑極まりない、人間の暗部。やがて傷痍軍人など終戦後を想起させる人物たちも現れ、シュールで退廃した世界へと転じていく。猟奇的殺人や近親相姦といった主題は今や映画や漫画でも珍しくはない。が、公開時は相当ショッキングなものだったようだ。実際、好悪は大きく分かれると思う。キワモノ呼ばわりする人もいるかもしれない。公開時、映画評論家の杉浦孝昭(おすぎ)は“とにかく汚らしい”と悪罵した。しかし、フィルムの底流には社会の底辺で苦しむ人間の孤独や絶望を透徹して見据える創り手の視線が感じられる。
脚本を読んだ寺山修司は“(映画化が)実現したら事件”と語ったという。制作可能になった背景には、石井聰亙らを嚆矢とした80年代のインディーズ映画ブームがあるのは確かである。そして、関西のアングラカルチャーの協力も大きいだろう。異能の舞踏集団として名を馳せた白虎社の面々は代表の大須賀勇はじめ出演を果たしている。劇団維新派の役者が出演(代表の松本雄吉は声の出演)しているのも見逃せない。関西人ならではの強烈なバイタリティ抜きには生み得なかったことは間違いないだろう。

※東京 シアターイメージフォーラムにてレイトショー公開中。
※大阪 シネヌーヴォX 9/22-10/12公開
※京都 京都みなみ会館 今秋公開 
※名古屋 名古屋シネマテーク 今秋公開

追悼のざわめき』HP:http://www.tsuitounozawameki.net/
「松井良彦、映画自記」:http://www.aa.alpha-net.ne.jp/cineymbw/

ウミヒコヤマヒコマイヒコ

dance3002007-04-16

昨年秋の『透体脱落』を最後に、劇場での公演を休止、各地で「場踊り」を行っている田中泯。近年は、山田洋次監督『たそがれ清兵衛』、犬童一心監督『メゾン・ド・ヒミコ』など映画にも出演、話題を集めている。その田中の主演する映画が今年初夏、公開される。といっても、劇映画ではない。『ウミヒコヤマヒコマイヒコ―田中泯ダンスロードインドネシア』。2004年11月から12月にかけて45日間にわたり、インドネシアの農村や漁村を独舞行した記録をまとめたものだ。製作は『乱』『始皇帝暗殺』などで知られる井関惺、監督はデザインディレクターとしてパッケージや広告を手掛ける油谷勝海 。

私は踊っている気なんですが、そう見えないかもしれません”田中自身ナレーションするように、インドネシアのさまざまな島を訪ねながら、道端でごろごろ転がったり、寝そべったり、ただフラフラ立っていたりと、足の向くまま気の向くままの独舞行である。スラウェシ島、スンバ島、カンゲアン諸島、マドゥラ島、ジャワ島、バリ島――島々をめぐる6つの旅。田中は、大地や海、川を背景・借景にするのではなく、野生に溶けこみ息づくかのように“踊る”。島民たちは、それを見てわらわらと集まる。インドネシアでは、舞踊とは儀式であり芸能だ。労働や遊びも密接に関わってくる。職業は百姓と言い切る田中も、生活者として地に足の着いた踊りを追及してきた。劇場空間で踊られる舞台芸術としての舞踊よりも、おのれの衝動をいささかも装うことのない身体こそ田中の志向するダンスなのだろう。このインドネシア独舞行は、自身の舞踊観を確認し、その後の活動を定める転換点となったという。田中のダンスの真髄が詰まった120分。

熱帯特有のからりとした気候、のどかな田園地帯、万物の生命たる水のきらめき、原始的な手作業による田植え、島民たちによる盛大な結婚式――現地の景色・風景を余さずフィルムに定着させている点も魅力的。その緩やかな時間の流れは、日々忙しく、せわしない生活を送る都会人にとってなんとも贅沢なものだ。田中の身体を通じ、観るものの心もしばし野生へと思いをめぐらせる。じわじわ身体に効いてくる、なんとも不思議な魅力をもったダンスロードムービーである。

(2007年4月9日 映画美学校第2試写室)
6月2日より、シアターN渋谷にてロードショー(配給:タラコンテンツ)

公式HP:http://www.maihiko.com/

田中泯 公式HP:http://www.min-tanaka.com/

※画像は公式HPより転載。

※当記事は桜座発行・甲府コミュニティマガジン「桜座スクエア」に転載されました。

朱霊たち

Masaki Iwana,Vermilions souls
舞踏家・岩名雅記が監督した映画『朱霊たち』が公開中(ポレポレ東中野でレイトショー2月9日まで)。

岩名は昭和20年(1945年)生まれ。舞踏研究所白踏館を主宰、現在は仏・ノルマンディに在住し公演活動を行なっている。毎年年末から年始にかけては帰国、ソロを中心に公演も行ってきた。明大前キッドアイラックアートホールや神楽坂die pratzeでの公演をみたことがある。舞踏といっても、土方一派の流れをくむわけではなく独学。「全裸姿で爪先立ちから倒れる」という動きにただようただならぬ緊張感には戦慄を覚える。しかし、この人の本領は、動きは一つひとつがじつに細やか、優美である点にあろう。

岩名は大学卒業後TBSでドラマ制作に関わり、映画を撮ることを念願としてきた。数年前から準備を重ね、製作に4年をかけて『朱霊たち』を完成させた。戦後7年目の東京麻布の廃墟を舞台にした、生と死、現実と夢の交錯するドラマである。岩名の幼時を思わせる少年の迷い込む、白昼夢。モノクロ画面を通して描かれるヒトとモノの不可思議。澤宏、長岡ゆりはじめ日本の舞踏家に加え、イタリア、フランス人キャストを参集。カメラは、かれらの比類ない存在感を捉えている。ことにパスカル・マランによる撮影がいい。人物だけでなく、木や風や光や海が単に風景としてではなく実存するモノとしてて観るものに手ごたえを持って迫ってくる。

製作条件は厳しかったようだ。岩名の私費と、140名を越える支持者のカンパ、そして文化庁の助成により完成した。ロケ地はノルマンディー地方。少数精鋭のスタッフによる密度の濃い映画作りが忍ばれた。岩名は本作の上映、舞踏活動を行いつつ、初夏には早くも新たな劇映画の撮影には入るという。還暦を迎え、ますます意気盛んな岩名。その活動が注目される。