ユニット・キミホ「Garden of Visions」

dance3002007-03-25

二十世紀バレエ団などで活躍したアンソニー・ハルバートと岸辺光代の間に生まれたキミホ・ハルバート。ダンサーとして踊るかたわら合同公演・発表会等での創作を手掛けてきた。05年には日本バレエ協会「バレエフェスティバル」において『Eve's Silma』を上演。コンテンポラリー・ダンスのコンクール登竜門・横浜ダンスコレクションRにも出品するなど精力的に活動している。今回は、旧作と新作を並べた初の自主公演。

ハルバートはバレエ作家の系譜に位置づけられよう。しかし、その感性は柔軟。バレエを軸に欧州のコンテンポラリーの流れも吸収、独自の舞踊世界を探求している。今回の上演作は、哲学的、内省的な主題を扱いながらもソフトで無駄のない動きが印象深い。『VISION OF ENERGY』や『Branches of Sorrow and Love』は大人数を用いた創作。前者では人と人の触れあいから生まれるエネルギーを浮上させ、後者では人間誰しもが向き合う生と死を形象化した。多くのメンバーが登場する場の間に挿入されるデュオやトリオが優れて詩的、叙情的。主要メンバー11名が出演した新作『Garden of Visions』では、舞台中央に花々をあしらった大木のオブジェを配し、庭園のなかでうつろいゆく人間模様を丁寧に描き出していく。

宮内真理子のソロ『La-La Land』は白眉のひとつ。舞台下手から白い花びらが舞い、舞台奥のスクリーンにはスピリチュアルな映像が流される。宮内は深く、しなやかに、そして激しく動く。ひとりの女性の内なる精神を浮き彫りにしている。コンテンテンポラリー系の若手作家・ダンサーの陥りやすい自己陶酔的な表出には留まっていないのはさすがだ。ハルバートと佐藤洋介のデュオ『skin to skin』は男と女の過去と現在の情景をスリリングに浮かびあがらせる。『INBETWEEN REALITIES』も仕上がりはいい。男ふたり(柳本雅寛、横関雄一郎)と女(島田衣子)の三人の関係性が主題。演劇的アプローチに依存せず、あくまでのムーヴメントを重視しつつ描いた点に作家の本領があると思う。

踊り手の水準は国内トップレベル。新国立劇場のプリマ(宮内)、井上バレエ団のプリマ(島田)、元・法村友井バレエ団のプリマ(西田佑子)が一堂に会するほか、札幌舞踊会出身の作間草、ハルバートの盟友・森田真希ら正真正銘の実力者が揃う。男性に関しても、武石光嗣、今津雅晴、横関雄一郎など豪華な面々。ほかにこのクラスのダンサーをそろえられるのは個人では佐多達枝くらいのものだろう。

日本において本格的な女性バレエ作家は少ない。孤高の境地に達した佐多達枝を筆頭に何人かが息の長い活動を続けているものの、後に続く存在がほしいところだ。ハルバートにかかる期待は大きい。西洋と日本、両方の血を引く彼女は、「日本人がバレエを踊るということ」への意識も強いはず。日本のバレエの未来を切り開く存在として今後も注目される。

(2007年3月18日 世田谷パブリックシアター)