井上バレエ団『眠りの森の美女』

井上バレエ団7月公演は『眠りの森の美女』。王子役に英国ロイヤル・バレエから新進プリンシパルのティアゴソアレスを招くはずだったが怪我のため降板。急遽、パリ・オペラ座バレエのプルミエール・ダンスールのエマニュエル・ティボーが代役として来日した。オーロラは藤井直子と島田衣子が日替わりで務める予定が本番直前に藤井が怪我。島田が2日間出演となった。
島田は若くして古典全幕に主演、コンテンポラリーや創作バレエでも活躍しているが、経験を重ね、いまがまさに旬、脂が乗り切っているといえよう。主役の個性・存在感がなによりも重要となるオーロラ役でも島田はその充実振りを存分にみせてくれた。第一幕、彼女が登場するだけでパッと舞台が明るくなる。初々しさ、可憐さと皇女の品格を兼ね備えた見事なプレザンス。ローズ・アダージオでも気負いというものがいささかも感じられない。安定し、余裕のある演技。ピンクのチュチュに身をまとった姿はさながらさしそめる曙光のように美しかった。第三幕、グラン・パ・ド・ドゥでは、シャープで明晰なパの運びが心地いい。ティボーとの息のあったフィッシュ・ダイブも見ごたえがある。
ティボーは昨春のパリ・オペラ座バレエ来日公演でも活躍、日本にも根強いファンがいるが今回、それは倍増となったことだろう。跳躍、回転に力感みなぎり、演技にも心がこもっている。独特の優雅で甘い雰囲気も魅力的だ。シリル・アタナソフの推薦により両親とのバカンスをキャンセルしての急な舞台とのことだったが、『眠り』の全幕の主役は初めて。期するものがあったのだろう。リハーサルも短期間だったはずだが、島田と相性もよく華のあるカップルだった。
演出・振付は関直人。関は後に師となる小牧正英らの参加した東京バレエ団(現在のチャイコフスキー記念東京バレエ団とは異なる)による日本初演白鳥の湖』を観てバレエの世界に飛び込んだ。『眠り』の日本初演は1952年、小牧と英国から招いたソーニア・アロワの手によるもの。その舞台が関の演出にどこまで影響を及ぼしているのかどうかは往時を知らない者には分からない(ロイヤル版に基づいてはいるようだが)。が、奥深い魅力を感じさせるピーター・ファーマーの美術を採用、お伽話の世界と、どことなくロマンチシズム漂う舞台は紛れもなく関ならではのもの。関の美学が隅々にまで感じられる舞台であった。
(2007年7月21日 ゆうぽうと簡易保険ホール)