清里フィールドバレエ『かぐや姫-LUNA』

山梨県清里で行われる「清里フィールドバレエ」を観にいった(以前にも行ったことはある)。バレエシャンブルウエストと萌木の村の主催によるこの催しは今年で18回目。国内では唯一の長期野外バレエとして知られる。清里の夏の風物詩としてのみならず全国的にも注目されるイベントとして定着しており、今年はなんと全国紙の1面を飾るという快挙を成し遂げた(舞踊に関する記事で1面ということは過去に例がないだろう)。
清里を訪れたのは公演2日目。中央本線に乗り甲府を経由、小渕沢で高原列車に乗り換える。鬱蒼とした森を抜け清里駅に降り立つと、肌寒さに襲われる。標高1274メートル。JRの駅のなかでも2番目に標高が高いとか。慣れてくると涼しく快適だ。空気もおいしく理想的な避暑地である。夜8時からのバレエを前に宿泊先にチェックイン、夕食を摂る。地物の肉類や乳製品もおいしく野菜や果物も新鮮。一皿一皿に清里の豊かな自然を感じさせられた。
8時前、会場に入る。空は暗く、星がみえる。森の木立の中にステージがあり、客席は大きな芝生の広場。芝生席の後ろに椅子席。多くの人が集まっている。近隣の住民のみならず、全国からの観光客がいるのだろう。同じ宿泊先にも、フィールドバレエ観劇をしに来ている方たちがいた。14日間、13ステージの客席を埋め尽くすのだから大したもの。
今宵の演目は『かぐや姫-LUNA』。いわずと知れた「かぐや姫」のお話だ。2004年に新国立劇場で初演された際には物語バレエとして魅力的な展開と、プラネタリウムを出現させた斬新な美術などスペクタクルが融合した舞台が好評を博した。今回は、休憩入れて2時間弱と刈り込まれたが野外舞台ならではの魅力を活かしたステージとなった。星々や月が借景となりドラマを盛りあげる。舞台奥、漆黒の闇のなかに浮かびあがる竹林には陶然とさせられる。衣装、照明も変化に富み夢幻的な世界をかもし出していた。かぐやを踊った川口ゆり子の、衰えを知らぬパフォーマンスには驚嘆させられる。ポジションを精確にきっちり回りきる回転技など凄い。時の帝の今村博明とのアダージオは白眉であった。月の帝の佐藤崇有貴も両者に拮抗する厚みがあり作品の風格を高めている。他の出演者も内藤明日香、松村理沙、吉本真由美、吉本泰久はじめ実力派を揃う。若い踊り手が次々出てきているのも強みだろう。ヴァリエーションを踊ったものや男性陣のなかに生きのいい人材が見て取れた。
フィールドバレエは長い年月を経て今に至る。客席で舞台を観ていた子どもがバレエを志し上京、出演者として故郷に錦を飾るケースも。それはとりもなおさず、出演者、スタッフが真摯に仕事を続けてきたからに他ならないだろう。野外の、簡素な舞台だからといって決して妥協しない、手を抜かない。狭い舞台など色々な制約もあろうが様々な工夫により解決してきたようだ。観客に本物の舞台を魅せる。その日、その時、はじめてバレエをみる観客が客席にいるかもしれないと考えると、舞台人としては手を抜くことは出来ない責任がある。一つひとつの舞台の積み重ねがあってこそ今日の隆盛があるのだろう。豊かな自然のなかで過ごす贅沢な時間、本物のバレエ鑑賞体験。リピーターが多いのも当然である。
※8月9日まで開催中。
HP http://www.moeginomura.co.jp/FB/
(2007年7月28日 清里高原 萌木の村 特設野外劇場)